3.開けてはいけない扉

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「ありがとう」  キッチンの後ろのスペースは狭くて、ハルくんの体が触れそうなほど近い。 「ハルくん、高校何年生?」  お米を計量カップではかりながら、私は意識をそらそうと適当に話題を振った。 「2年だよ。もうすぐ17」 「17歳かぁ。私とは……6つ違いだね」  6歳も年上の女なんて、当然ハルくんにとっては恋愛の対象外なんだろうな。 「年齢は関係ないんじゃない? 僕、年上の女の人好きだよ」  まるで私の心を読んだようにあまりにもさらっと言うので、どんな返しをしていいか困った。 「──なゆさんって」  ふと、ハルくんが私を見下ろして小首を傾げる。 「何?」  手を止めて聞き返したとき。  急にハルくんの腕が背中に回り、私の体の前半分が、彼の制服に押しつけられていた。  私の肩口に顔をうずめてきたハルくんは、近くで見てもきめ細かな肌。  メープルシロップみたいな明るい髪は艶やかで、触るとシフォンケーキのように柔らかそう。  ──ってそんなことより。  私、なぜかハルくんに抱きしめられてる? 「ど、どうしたの? 具合でも悪いの?」  心配になって尋ねてみると、ハルくんは顔をうずめたまま、くぐもった声を出した。 「なゆさん……何か、懐かしい香りがする」 「え……?」 「そうやってキッチンに立っている姿を見ると、母さんのことを思い出すんだ」  ハルくんの声は切ない声色に変わっていき、泣いているのでは?と勘ぐってしまうほどだった。
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