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「ありがとう」
キッチンの後ろのスペースは狭くて、ハルくんの体が触れそうなほど近い。
「ハルくん、高校何年生?」
お米を計量カップではかりながら、私は意識をそらそうと適当に話題を振った。
「2年だよ。もうすぐ17」
「17歳かぁ。私とは……6つ違いだね」
6歳も年上の女なんて、当然ハルくんにとっては恋愛の対象外なんだろうな。
「年齢は関係ないんじゃない? 僕、年上の女の人好きだよ」
まるで私の心を読んだようにあまりにもさらっと言うので、どんな返しをしていいか困った。
「──なゆさんって」
ふと、ハルくんが私を見下ろして小首を傾げる。
「何?」
手を止めて聞き返したとき。
急にハルくんの腕が背中に回り、私の体の前半分が、彼の制服に押しつけられていた。
私の肩口に顔をうずめてきたハルくんは、近くで見てもきめ細かな肌。
メープルシロップみたいな明るい髪は艶やかで、触るとシフォンケーキのように柔らかそう。
──ってそんなことより。
私、なぜかハルくんに抱きしめられてる?
「ど、どうしたの? 具合でも悪いの?」
心配になって尋ねてみると、ハルくんは顔をうずめたまま、くぐもった声を出した。
「なゆさん……何か、懐かしい香りがする」
「え……?」
「そうやってキッチンに立っている姿を見ると、母さんのことを思い出すんだ」
ハルくんの声は切ない声色に変わっていき、泣いているのでは?と勘ぐってしまうほどだった。
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