3.開けてはいけない扉

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「じゃあ、今度ハンバーグ作ってよ」  どんな難題を出されるか内心ドキドキしていたのに、拍子抜けするほど簡単な、可愛いお願い。 「そんなことでいいの?」 「うん、兄貴たちにリクエストしても、滅多に作ってくれないんだ。冷凍餃子やレトルトのカレーが多いし……」  一瞬寂しげな瞳をしたあと、 「絶対作りに来てね。約束だよ」  真剣な顔つきをしたハルくんは、細い小指を私の小指に絡めて指切りをしてきた。  ということは、まだこの家に通わなければいけないわけで。  私は一体いつまで婚約者のフリを続けなければいけないんだろう。  本当にこのまま一馬さんのお嫁さんになってしまったりして。  そうしたら、ハルくんは義理の弟に……?  都合のいい妄想を繰り広げているうちに、カレーライスがいい具合に煮込み上がり、食欲のそそられる匂いが家の中へ充満し始める。  シーザーサラダも作り、ハルくんの分をお皿に取り分けていたとき。  ふとリビングの方へ視線を向けた私は、ローテーブルの下に何かが落ちていることに気づいた。  ハルくんは自分の部屋にでも行ってしまったのか姿を消している。  足音を立てないよう静かに近づくと、毛足の長いラグマットの上に落ちていたのは、手のひらサイズの白いクマのぬいぐるみだった。  ──男3人暮らしの家に、愛らしいぬいぐるみ?  誰かの彼女が忘れていった物だろうか。 誰かって、ハルくんか拓馬さんしか考えられないけれど。
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