3.開けてはいけない扉

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「ハル……、頼んだよな、部屋で寝かせといてって」 「兄貴、もしかしてなゆさんに黙ってたの? それ、普通にサギじゃん。隠すのはよくないと思うよー?」 「もう少し時間を置いてから紹介したかったんだよ」 「なゆさんに逃げられると思ったんでしょー」  私は二人の会話を呆然としながら聞いていた。  ……どういうこと?  一馬さんに娘がいたの?  私、そんな話は聞いていないのに──。 「一馬さん……、結婚してたんですか」  強張った顔を隠さず、私は問い詰めるように訊く。 「いや、今は結婚してないよ。半年前に離婚してるんだ」 じゃあ、バツイチ子持ちってことですか……。 「あのお姉さん、だぁれ?」  女の子が不思議そうに一馬さんの足にぎゅっとしがみつく。 「パパの大事なお客さんだよ。一花(いちか)はハルとご飯食べてなさい」 「はぁい」  ハルくんと女の子……一花ちゃんがリビングへ消え、一馬さんは廊下で小さくため息をついた。 「ごめん、騙す形になって」 「いえ、いいんです。あんな簡単に、話に乗った私が悪いんです。私なんかがホントに結婚できるなんて思ってませんから。失礼します……っ」  リビングへ鞄を取りに戻り、慌ただしくパンプスを履いて玄関を出る。  一馬さんとはもう目を合わせられなかった。 「なゆちゃん──」  扉が閉まる直前、一馬さんの声が聞こえたけれど。  私はそれを振り切ってエレベーターのボタンを押した。  間違えて、好きになりかけたじゃない。  優しくてポジティブな一馬さんのこと。
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