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今夜紹介してもらう人は、真面目な男性らしく。外見も私の理想にぴったりな人だというから、一週間も前から楽しみにしていた。
前の会社で隣の部署の先輩だった西條叶多さんが、彼氏がいなくて寂しそうな私にと、わざわざセッティングしてくれたのだ。
1階のロビーを抜けて、私はホテル内にあるビュッフェ式レストランへ入った。
叶多さんの名前で予約しているらしいので、ウェイターにそれを告げると奥の席へ案内してくれた。
空席の目立つ店内。
4人用のテーブルにはすでに一人、男の人がこちらに背を向けて座っていた。
がっしりした広めの肩幅だったから、叶多さんではないみたい。
「あの……初めまして」
恐る恐る話しかけると、
「あ、どうも初めまして」
さっと立ち上がり好青年風の爽やかな笑顔を見せてくれた男性に、私は安心して笑顔を返せた。
「佐々木一馬です」
背筋を伸ばして自己紹介してくれた彼は、天井を見上げてしまうほど背が高かった。
短めに切り揃えられたダークブラウンの髪。ノンフレームの眼鏡。スーツに白シャツ、ネクタイもきっちりと締めていてすごく真面目な感じ。
動物に例えると──さっき一目惚れしたあの人が、近寄りがたい雰囲気の黒猫なら。目の前の彼は人懐っこいゴールデンレトリバーかな。
私の好みとは少し違うけど、良い人そうでよかった。
少なくともハズレではない。
「深瀬奈雪です」
私も彼にならって自己紹介すると、一馬さんは目を細めて人好きのする笑顔を見せた。
「なゆきちゃん? 可愛い名前だね。なゆちゃんて呼んでもいい?」
「はい。喜んで」
“なゆ”という響きが気に入って、私は快く返事をした。
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