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「私、叶多さんの後輩で。今年で23歳になります」
まるでお見合いのように自己紹介が進んでいく。
「23かあ、若いな」
一馬さんは目を細めて羨ましそうな表情をした。
──若い?
叶多さんの高校のときの同級生だと聞いていたから、私とは2つしか違わないはずなのに。
でも言われてみれば、一馬さんは叶多さんよりもずっと落ち着いていて、大人っぽい雰囲気だ。
「一馬さん、お仕事は何をされてるんですか?」
「銀行に勤めてる」
銀行員なんだ。彼のイメージにぴったりかも。
「銀行なら転勤があるんじゃないですか?」
「あるけど、市内の範囲で済むことが多いんだ。そんなに遠くまで引っ越すことはないから大丈夫」
一馬さんは、私を安心させるように柔らかく微笑む。
「なゆちゃんは?」
「私は最近まで印刷会社に勤めていて、契約が切れたので今は就職活動中です」
「そうなんだ。……大変だね」
自己紹介が一段落し、私たちはビュッフェコーナーへ飲み物を取りに行った。
一馬さんは私に飲み物を注いでくれたり、前菜をお皿に取ってくれたり、さりげなく気配りができるスマートな人だ。
「そういえば叶多さん、遅いですね」
待ち合わせの時刻はとっくに過ぎているというのに、姿を見せる気配がない。
「……そうだね」
ゆっくりと頷いた一馬さんは、眼鏡の奥の瞳にどこかミステリアスな雰囲気を漂わせて、コーヒーを口に運んだ。
スマホを確認してみると『仕事で遅れるから、悪いけど先に始めてて』と連絡が入っていた。
どうやら休日出勤が長引いているみたい。
それを伝えると、一馬さんはミステリアスな雰囲気を消し、元のようににこやかに微笑んだ。
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