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「ダメってことは……ないですけど」
「ほんと? ありがとう助かるよ!」
私の返事にかぶせ気味でお礼を言った一馬さんは、目を輝かせた。
その勢いに若干引きながらも、叶多さんの紹介だから、きっと大丈夫だと信じることにする。
少しの期間とはいえ、お試しで婚約者というものを体験できるなら、こんなにお得なことはないのでは?
一目惚れした彼には未練が残るけど、二度と会うことはないだろうし。
私は軽い気持ちで一馬さんの頼みを引き受けることにした。
「3日後の夜、また会って欲しい。そのときに詳しく説明するよ」
「はい。私で良ければ。よろしくお願いします」
お互い軽く頭を下げ、契約が結ばれる。
「なんだったら、ずっと婚約者のフリを続けてくれても構わないよ」
「え……?」
私は首を傾げ、一馬さんを見つめ返す。
それは、どういうことだろう。
「まだ会ったばかりだけど。俺、なゆちゃんのこと気に入ったから。俺のところに永久就職っていう手もあるよね」
「あ……、はい」
私は半信半疑になりながらも、彼の真っ直ぐな瞳に吸い寄せられ、深く考えずに頷いていた。
もしも、取り柄のない私を好きになってくれたとしたら。
一馬さんみたいな優しそうな人となら、本気で結婚を考えてもいいかもしれない。
こんなチャンスは滅多にないはずだから。
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