prologue

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***  誰の目にも晒されない、二人だけの密室。  彼の長い指が婚約指輪に触れ、私の薬指から抜き取っていく。  それをテーブルへ乱暴に置かれても、咎める気持ちは微塵も湧き起こらなかった。 「兄貴とはもう、二人きりでは会うなよ……」  微かな罪悪感と、抑えきれない彼への想いが交錯する。  彼の心が全て手に入らないと知っていても。ほんの少しの間でいいから、私だけを見て欲しい。  明日、たとえ私のことを忘れても。  今この瞬間だけは──。  切ない吐息が、私のくちびるに届いた。 ***
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