第一章 2 『新月』

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第一章 2 『新月』

 満月の光が、室内に流れ込んでくる。  流榎の通う高校——黒東(こくとう)高校から徒歩十五分程度の廃ビルの一室は、あまりにも汚かった。    大きいリビングにダイニングテーブルが一つ。それに向かい合うように長椅子が二つ。  奥にソファーがあるだけという簡素なもの。    その汚い一室には、綺麗な薔薇が咲いていた。  黒髪ロングに紫紺の瞳を持つ少女——東峰紫苑だ。    屋上で東峰と出会ってから、流榎はここに連れてこられた。   「——契約を交わすにあたって、三つ条件があるの」    薄汚い部屋とは相反した美声を東峰は発した。   「一つ目。殺しはしないこと」   「二つ目。私が死んだらあなたも死ぬこと。もちろん、あなたが死んだら私も死ぬわ」   「三つ目は……」    そこで東峰が口を止めた。   「なんだ?」   「いや、いいわ。気にしないで」    特段気になるわけでもないので、流榎は詰問しない。   「お前も、あの五人組に何かされたのか?」   「……まあ、そんなとこ」    東峰は流榎から目を逸らし、窓の外へと目をやった。  あまりに孤独な満月だった。  孤高とはかけ離れた、寂しい満月だった。   「…………これ、私のLINEのIDよ」    小さな紙切れに、『020922170920』という数字が書いてあった。   「これで連絡をするように。気安く学校で話しかけるのはやめて欲しいから。あと、会話内容は極力消すように。データは残るからあまり意味は無いけれどね。だから、危ない内容などはここで落ち合って話すこと。分かった?」    流榎は「ああ」と頷き、一度目の密会を終えた。  
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