金木犀が香るとき

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2 今まで頑張れていたことができなくなっていた。やらなければならないことでも何も集中できなかった。 できないことに焦りを感じ、より一層手にものがつかなくなるという悪循環に陥り、大学二年生の春、とうとう家から出られなくなった。 朝、学校に向かおうとすると吐き気が襲ってくる。何をしたって治らない。 二日、三日とたち、これはただの体調不良ではないと感じてきた。食べることやお風呂に入ることもままならない。神経が高ぶって、睡眠もろくに取れない。異常な不安感にも見舞われた。 あまりの不安に襲われると自分の首を軽く絞めるようになっていた。これは自分でもおかしいと思った。この辛い状況からどうにか抜け出したい、楽になりたいと感じた。 今ならまだ動けると思い、どうにか重い体を動かし、精神科に向かった。向かう間も、大学もろくに行けていないくせにと周りから思われているのではないかと不安でしかたがなかった。医師からは鬱だと診断された。安定剤、睡眠薬、胃薬が処方された。これで本当に楽になれるのかとあまり信じられなかったが、私の症状は着実に回復していった。 しかし、二度と大学に通えることは無かった。退学の手続きをし、親には家に帰ってこいと言われた。私はそれを拒絶した。
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