金木犀が香るとき

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1 目がぼんやりと開いていき、だんだんと天井の木目にピントが合っていく。何年か前から目覚まし時計は持っていない。精神科から処方 された睡眠薬を飲むようになってからは薬が切れると目が覚めるので、薬を飲む時間さえ考えておけば、寝坊することは無いし、その上職業上、大事な用事でもない限り少々の寝過ごしは許されるので目覚まし時計が無くて困ることは何もない。 ベッドから起き上がると、飼い猫のウメがごはんの催促をにゃーにゃーとしてくる。 足元がふらふらとするがウメがついてこいと言わんばかりにこちらを時々振り向きながらそそくさと歩いていくので、キャットフードがある台所へ向かった。 キャットフードを取り、皿に入れると満足そうにカリカリと音をたてて食べ始めた。 他に今この家に聞こえてくるのは鳥のさえずりぐらいで、家の窓から見えるのは庭の花と赤や黄色に色づいた木々だけで、まるで人間は自分以外存在していないようにさえ感じる。
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