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 「どーも、小春と言いまーす!お役所勤めの29歳でーす!」  小春ががつがつと自己紹介をした。  4月になったというのに、日本にはまだ春は来ていなかった。  外国の冬はとっくの昔に終わってしまっている中、何故か日本だけ雪が降り続いていた。  気象庁は毎日のように春の気配を探し回り、気象予報士は首をかしげながらお天気情報を発信し、陰謀論者は大国からの攻撃だと怯え、一般市民は連日報道される異常気象に右往左往となっていた。  そんな、世間が「日本がやばいのでは」と騒ぎ立てている中、東京タワーの地下空間の一室が即席の居酒屋に作り替えられた。そしてそこで男女8人での飲み会が開催された。  俗にいう合コンである。  「はーい、次わたし―!」日焼けした健康的な褐色の肌の女性が快活に手を上げる。  「夏海って言います!小春の同僚の28歳です!よろしくっす!」夏海は大きくお辞儀をしながら、室内に響き渡る声で挨拶した。  「あ、えっと・・・千秋と申します」夏海の隣にいた、茶髪の女性が挨拶する。消え入るような声で、前者とのギャップからか元気がなさそうに見えてしまう。  「それからえーっと、一応幹事やってます、冬華と言います。よろしくです」  同僚たちのはしゃぎっぷりに恥ずかしさを覚えながら、私は自己紹介した。  こめかみが痙攣しそうなのを何とか抑え、笑顔だけ取り繕いながら、事の経緯を思い出す。まったく、何もかも全て小春のせいだ。
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