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 1月も終わりが近づき、私は東京タワーから出るための準備を始めた。  毎年恒例のことだ。ただ、タワーから出ると言ってもエレベーターで降りるわけではない。  私が今いるのは東京タワーの下、地下室とも言える場所である。この場所がいつからあるのか、正式な記録が残っているわけではないようだ。  ただここははるか昔、江戸がただの野原であった頃からあるらしい。東京タワーはいわば後付で建てられた電波塔。だから東京タワーから出る、という言い方には語弊があるかもしれない。しれないが、私たちはそう言う。  私は公務員である。  私の仕事は住民情報の管理運用業務、それから立冬と共に東京タワーに入り、立春と共に出る。ただそれだけ。  私の肩書きは「冬の女王」となっている。平成29年にもなったというのに、私の名刺にはこの肩書きが大きくプリントアウトされており、名刺交換の際にはいつも気が滅入ってしまう。  役職の名前を変えてほしい。飛んだ中二病である。しかし、これは代々私の家系が継いできた役目であり、そう易々と変更できるものでもないらしい。このジレンマにはいつもため息が出る。  ここに来た日に広げた書類を段ボールに放り込む。それから備え付けのノートパソコンに差しっぱなしにしていたUSBメモリを引き抜き、同じように仕舞った。このパソコンは仕事用である。地下室にこもっている間も事務処理作業をしなければならない。税金で養ってもらっている身としては当然の義務である。  女王は全部で4人いる。  それぞれが春、夏、秋、冬を司り、順番にタワーに入る。そうすることでこの国では季節が移り変わってきた、らしい。真偽のほどは分からない。分からないが「冬の女王」たる私は東京タワーに入る。何故ならそれが仕事だからだ。私がここを出られるのは「春の女王」が来た時だけ。それ以外では外出禁止、近所のコンビニに行くことさえ許されない。
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