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 やかんに水を入れコンロにかけると、スマートフォンを操作して小春に電話をかけた。出ないだろうと思っていたが、2コールで繋がった。  「はいはーい、どうしたの、冬ちゃん?」軽快な声が右耳に響いた。  「どうしたというか、王様が小春に連絡着かないって愚痴ってきたからさ」  「あー、そうだね、電話あったね」途端に歯切れが悪くなる小春。  「連絡してって言ってたよ」とりあえず伝言を済ませる。  「いやあ、まだタワーに入りたくないんだよねー」小春がぶっちゃけた。  「・・・え?」  何を言っているのだろうか、この子は。  「だってさ、まだ冬を満喫してないんだもん」  「でも仕事なんだし、来てくれないと―」私も困る、と言いかけたところで小春が、  「20代最後の冬だよ?なのにクリスマスを彼氏もなしに過ごしたんだから!冬ちゃんは知らないだろうけど」と切実な声を出す。  そんなこと知らないに決まっている。冬の間この部屋に閉じこもっていたのだから。むしろ私がここにいるから、クリスマスが来た、とも言えるかもしれない。しかし、クリスマスを彼氏なしに過ごしたのはあなただけではない、とも思った。  やかんがけたたましく鳴り始め、火を止めた。  「だから、ボイコットするね」突然、声が明るさを取り戻した。  「・・・はい?」思わぬ言葉に絶句してしまった。  「大丈夫だよ、どうせ私が行かなくったって、春は来るって」  そう言って、私が制止する間もなく小春は電話を切ってしまった。  小春の気持ちは分からないでもなかった。自分と季節の関係性なんて全く思い当たらない。でも仕事なんだけど。  とりあえず、と私は王様に連絡した。事の経緯を聞いた王様は、それは困った、と全然困っていないように言った。  「私の電話には出てくれないみたいだから、雪城くんからまた説得してくれる?」  王様の声には焦りも何も滲んでいなかった。  恐らく彼も昔からのしきたりに懐疑的なのだろう。私も軽い気持ちで了承し、その後も何度か小春に連絡した。しかし彼女の意思は固く、結局立春の日も彼女は来なかった。  そして、「春」という季節もついに来ることはなかった。
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