はじまり

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はじまり

 入学式や卒業式に満開の桜が咲き誇っているアニメやドラマが嫌いだ。小学校も中学校もそんな華やかなに迎えられたことも見送られたことも一度もなかった。私の春はいつも無味乾燥な景色でできていた。きっと、桜吹雪に歓迎してもらえるのは一部のいわゆる「持っている人」なのだろう。泥くさく、人を惹きつける力なんて一切ない私には関係ない御伽噺【おとぎばなし】。  でも、今回は少し違った。高校の入学式当日、一輪の桜の花びらが空をひらひらと舞って、おろしたての制服の肩にとまった。咲き遅れたかわいそうな桜が同胞の高校デビューをほんの少しだけ祝福してくれた。  都道府県自慢度ランキング10年連続最下位、これといって良いところも悪いところもない埼玉県。花のない私にはぴったりだなと思う。3週間程前に父の仕事の関係で急遽、札幌から埼玉に引越しをすることになった。引越しの話を聞いたときは驚いたけど、父と母が話しあって決めたことを私にはどうすることもできない。私が中学を卒業するタイミングなら時期的にもちょうど良いだろうということだった。地元に愛着がないわけではなかったけど、正直どちらでもよかった。両親の決定に逆らえるほど大切な友人も情熱的に打ち込んだ物も私は何も持ち合わせていなかった。  だから、新天地に来たら、高校に入学したら、そんな私を変えたいと思った。自分の灰色の人生に彩りを与える何かに出会いたいと強く思っていた。その何かがまさか「アレ」だとは高校に幻想を抱いていたこのときの私は思いもしなかったのだけど…。
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