はじまり

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 「かすみ、準備できた?そろそろ朝ごはん食べないと遅れるよ。入学当日に遅刻なんて目立ってしょうがないからやめてよ?」  「うん、大丈夫。今行く。」  母が忙しなく大して広くないキッチンを行き来している。ダイニングテーブルの上にはTHE モーニングっといったような目玉焼きと朱色の焼き鮭が並ぶ。登校の準備に時間を取られてしまったからか湯気はもう立っていない。  でも、それも仕方のないことだろう。高校初日、乙女にとって朝食の温かみよりかは身だしなみの方が大事なものかと思われる。髪や制服にだらしなさが見られては舐められる。ただでさえ、埼玉に来てからは友達が1人もいないのだ。周りから引かれるようことは避けたい。入念に髪を梳かして、切り揃えた前髪にヘアアイロンをあてた後、入学式に遅れないように急いで朝食に手をつける。咀嚼の間にテレビに目を移してみれば、今日も朝からインチキ占いを公共の電波に垂れ流している。私はオカルトが嫌いだ。  「乙女座の貴方は地のエレメントのパワーが足りないかも。受け身になりがちで思ってもいない方向に転がりがち。大地を感じてしっかり自分の行きたい方向を見極めよう。ラッキーアイテムはサータアンダギー。」  ほーら見たことか。何が地のエレメントだ、胡散臭い。受け身になりがちだとか誰にでも当てはまりそうなことを言って信じさせようという魂胆が丸わかりだ。バーナム効果の典型、こんな占い誰が信じるというのか…。  「お母さん、うちにサータアンダギーある?」  入学式の持ち物が一つ増えた。
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