はじまり

3/12
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 奇跡的に家にあったサータアンダギーをいくつか袋に入れて制服のポケットにぶち込む。今日は肌身離さずサータアンダギーを持ち歩こう。しかし、入学式にサータアンダギーを持っていくという娘の愚行を訝しむ母の目が痛い。だが、高校の入学初日に失敗する訳にはいかないという私の気持ちもわかってほしい。何か言いたげな母の脇をすり抜け玄関の扉を開ける。  「行ってきます!」  乾燥した空気とともに外の景色が目に入る。雲一つないスカイブルー、とはいかないが雨が降る心配はなさそうだ。占いより天気予報を見ておけば良かった。まあ、新しい生活の幕開けとしては雨が降ってない分上々だと思う。中学校の入学式は土砂降りだったのを覚えている。現実はフィクションのようにはいかないものなのだと思い知った。  ボタンを押してエレベーターを待つ。今後、またあるかもしれない父の転勤を気にしてうちはマンションに住んでいる。エレベーターを待っている間、ふと隣人の部屋に視線を移す。そういえば、会ったことはないがお隣さんにも高校生がいるようだ。しかも同性。友達に恵まれなかったら仲良くしてもらおうと考えてる間にエレベーターがついた。  
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!