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クリスマスプレゼント
「なあ、クリスマスプレゼントとかさ、交換せえへん?なんか楽しそうやん」
取って付けたような関西弁で私は雅也に話しかける。
雅也は読みかけの文庫本に栞を挟んで、
「瑠奈にプレゼントなら食べ物だね、肉、肉、肉、とにかく肉ってところか?」
本から私に視線を移して雅也はからかってくる。
「肉って、そりゃ美味しい肉は食べたいけどそういうんじゃなくて、もっとクリスマス的な素敵な物をね」
関西弁は無理があるので元に戻す。
「じゃあ、ケーキとか?5号のケーキを一人で食いつくしそうだ」
「人を食い倒れ人形みたく言って酷い」
「食べても太らないその体質は羨ましい。ただ、三十代になると基礎代謝が落ちて十代と同じように食べていると生活習慣病になる。その大食いは今のうちに直した方がいい、二十代で肌の角も一度曲がったことだし…」
「悪かったわね、どうせ26歳でお肌の角は一度曲がりました。でもそれは雅也もだよ?」
雅也はクスクスと含み笑いをしながら、
「本当に変わらないね。こうやってだらだらコタツで喋ってさ。漫画やアニメのような見目麗しい幼馴染みでないのが残念だけど」
私の顔をまじまじと見つめてくる。失礼な!
「それは私も思ってる。乙女ゲーの登場人物みたいなイケメンの幼馴染みの方が良かったのに」
イーっと口の形を変えて雅也に言い返す。
「まあ、現実というのは意外と平凡なんだよ。物語とは違う。ところでクリスマスプレゼントだけど、頼みがある。ちょっと彼女へのプレゼントを見繕ってほしい。ついでに瑠奈にお礼のプレゼントもするから」
え?今、彼女って言った?雅也に彼女?彼女ォォォー!私という、かわいい(?)幼馴染みがいながら彼女だと?失恋フラグがバリバリ立ってるやないかい!内心の動揺を悟られないように雅也をからかう。
「へぇ、いつの間にそんないやらしいことになったの?」
「いやらしいって言うな!まだ何も…うるさいな、もう」
「え?まだ何もしてないの?ダサっ!」
「ダサいって直球で凹むからマジ止めろよ」
「雅也の癖に彼女とか作るなんてそもそも生意気だし」
「お前、何様?」
「かわいい幼馴染みだけど?」
「全然かわいくない。口を開けば憎まれ口かからかうことばかり考えて。そんなんだと一生彼氏出来ないぞ」
「うわぁ、今のグッサリ来た、傷ついた」
「ま、悔しかったら彼氏作るんだな」
カッチーン!何で同い年の雅也にマウント取られなきゃいけないの?彼氏なんて簡単に作れ…。作れたら26歳まで一人でいないっての。
というか、クリスマスとかバレンタインとか誕生日とか一人じゃ寂しいイベントは大抵雅也が渋々付き合ってくれていた。一番近くにいる友達で、いつか雅也から付き合おうって言ってくれると思っていた。
家同士が徒歩5分の距離で、あまりにも近くにい過ぎて、好きとか付き合おうとか言えないだけだと勝手に勘違いしていた。
「でさ、この子なんだけどどんなプレゼントがいいかな?」
雅也がスマホの画像を見せてくる。そこには腕を組んだ二人の写真があった。へぇ、なかなかかわいいじゃん、ケッ!彼女をガッカリさせる嘘のアドバイスを教えちゃおう。
「付き合いたてはあまり高い物はダメ。重すぎて引く。アクセサリーとかは好みがあるから、そうだね…。500円くらいのハンドクリームとか軽めのプレゼントがいい」
500円のハンドクリームとか女子高生のプレゼント交換でも出てこないと思う。さて、雅也は私の嘘に気づけるかな?
「なるほど。付き合いたては気軽なモノか…。ハンドクリームがアリならリップクリームとかでもいいのかな?」
オイ!嘘ついてるんだけど真に受けてる…。このまま盛大にクリスマスプレゼントで滑ってフラれてしまえ、クククッ…。
「リップクリームもいいと思う。デパコスとかクリスマスコフレとか張り切り過ぎると引くから。ドラッグストアで買えるモノの方がいい」
「デパコス?クリスマスコフレ?何それ?」
「デパート限定のクリスマス限定商品」
「なるほど。そういうものより日常使い出来るモノがいいと」
「そうそう。変に見栄張ると嫌われるよ」
そろそろ意地悪されて騙されてるのに気がついてほしいな~。鈍いな、相変わらず。
「じゃあ、ドラッグストアに一緒に行ってどれがいいか見てくれ。リップなんて俺にはどれも同じに見える」
「まあ、見繕ってあげなくもないけど?お礼のプレゼントは何をくれるの?」
「瑠奈は何が欲しい?」
「一粒石のダイヤのネックレスとか?」
「それっていくらするんだ?」
「ピンキリだから1万~10万ってとこだよ」
「オイ、キリでも1万ってリップクリームを選ぶ対価として高すぎないか?」
「私はリップクリームソムリエ、私の目利きは高いの」
「嘘つくな、そんな資格持ってないだろ!」
「へー、じゃあ一人でプレゼント見に行けば?500円のリップクリーム選ぶのなんて簡単でしょ?」
「簡単なら一人で行くし、からかわれるの承知で彼女の存在なんかお前に明かすかよ?」
「キリの1万の人工ダイヤで手を打とう」
「マジでそのぼったくり価格なの?」
「嫌なら一人でプレゼント選びな」
「瑠奈さぁ、俺とお前の仲だろ?」
「親しき仲にも礼儀あり」
「わかった。麗子に好かれるためなら一万で選んで貰うよ、リップソムリエさんよ」
「よっしゃ!ダイヤのネックレスをゲットした♪テレレテッテレー♪」
「何レベルアップしてんだよ、今のRPGのレベルアップ音だよな」
「まあ、大船に乗ったつもりでいなよ。私に任せて」
ねえ。ダイヤのネックレスとか別に要らないよ。雅也に隣にいて欲しいだけ。雅也が麗子って彼女の名前を呼んだとき、ちょっとだけ照れて、頬を赤くしてるところを見たくなかった。私に好きっていつか言ってくれると思ってたのに。雅也の癖に生意気、バカ!
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