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プレゼント選び
「先にお前のプレゼント選びかよ?」
ショッピングモール内の宝飾品売場に私と雅也はいる。
「うん、もう目星はつけてあるから」
ホクホク顔を無理に演じて私は店員さんにスマホの画像を見せて型番を伝える。
「こちらにございますよ。お待ちください」
楕円形の鏡の前で、雫型のデザインのクュービックジルコニアのダイヤを身につけてみる。
「お似合いですよ~彼氏さんもそう思いますよね?」
店員さん…その人彼氏じゃない。雅也は曖昧に頷いて、
「じゃあ、それを」
勘違いしている店員に愛想笑いをしている。
「ありがとうございます。プレゼント用にラッピングしますか?」
「お願いします」
勘違いした店員を咎める訳でもなく、早く彼女のプレゼント選びをしたいのか、そそくさという言葉がこれ程ぴったりくるシチュエーションは他にないほど、雅也はテキパキしている。
ネックレスをした私を誉める訳でもなく、心ここにあらず。虚しくなる、なんで彼女のプレゼント見繕ってあげるなんて言ったんだろう、私は。
雅也は私の嘘に気づかないまま、ドラッグストアに車を走らせ、真面目に500円クラスのリップクリームの棚を穴が開くほど見ている。
「で、どれがいいんだ?ソムリエ?外したら、そのダイヤ没収だからな」
真剣な顔で私を見ている。私はいい加減ネタばらしをしようか悩みながら、メントールで有名な某ブランドの二本入りのリップクリームを手に取った。
「冬の乾燥にはこれが一番効くの。変に小洒落たモノじゃ、カサつきは治らない」
一番、日常的でプレゼントに不適格なモノを選び、ドラッグストアに申し訳程度にある文具売り場でラッピング用の素材を揃える。
「825円のお買い上げです」
リップとチェックの紙袋、シールで張るリボンで825円のクリスマスプレゼント。店員さんの事務的な対応とは裏腹に雅也はドキドキしてるようだ。お釣りを受け取るとき指が震えていた。
車の中で簡単なラッピングをしてあげると、
「瑠奈、ありがとう。これで明日のクリスマス・イヴ、麗子にプレゼント用意出来た」
私に雅也は頭を下げて来る。嘘だってここまで来て気づかないって、どうしよう。こんな日常的な安いリップをプレゼントしたら雅也は麗子さんに振られちゃう。
「ねえ、やっぱり考えてみたんだけど、リップはカジュアル過ぎるから止めよう」
「は?今さらなんだよ?」
「いや、この雫型のダイヤのネックレスなら服を選ばず気に入って貰えるからこっちを彼女にあげなよ」
「重すぎる、値段が高過ぎると不味いんじゃなかったか?」
「一万なら普通の範疇だよ、もし受け取りを拒まれたらリップにすれば?」
「なるほど、二段構えか」
「うん、頑張れ。彼女といやらしいこといっぱいしてきな」
「な、別にそういうの期待してる訳じゃなくてだな、真面目に贈り物って難しいんだよ」
「ハイハイ、説得力ゼロ。鼻の下伸ばしてる雅也が目に浮かぶわー」
「うるせえよ、ここまでして外したら瑠奈のせいだからな」
「へーへー。明日はお気張りやす、色男」
無理して笑いを作って、隠してる本音に気づかれないように演じていた。安いリップクリームをプレゼントにさせるなんて、やっぱり良心が咎めて出来なかった。
明日はクリスマス・イヴ。
歌詞じゃないけど、ひとりぼっちだ、今年は。クリスマスもバレンタインも雅也が渋々付き合ってくれてた日々は終わっちゃった。女が好きなものとかわかんないからといいつつ、お菓子でお返しをくれたホワイトデーももう終わりなんだ。
クリスマスなんて、この世から消えればいいのに。明日なんて永遠に来なければいいのに。
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