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私から貴方へ
一人で缶チューハイ片手にコタツに潜っている。コタツのテーブルの上にはカギ針で編んだマフラーが無造作に放り投げてある。
誰だよ、12月23日から25日を三連休にしたやつ!クリスマス・イヴが土曜で、日本の天皇誕生日が23日って出来すぎ。
今年こそはと思って、編み目は不揃いでもなんとかマフラー編み上げたのに、雅也は彼女とイチャコラしてる。あー、腹が立つ。
もう呑むしかない。酔って寝よう、明日も休みだ。二本目の酎ハイに手を伸ばすと、部屋の引き戸が開いた。
「よ、子供部屋おばさん、元気?」
「私が子供部屋おばさんなら雅也は子供部屋おじさんだけど?デートは?まさかフラレたの?」
「なんだよ、その人の不幸は蜜の味的なの」
「だってデートしてたにしては帰がり早すぎません?どうしたの?」
「あのなあ、お前相変わらず鈍いな」
「へ?」
ヒックと飲み過ぎてしゃっくりが出た。
「この写真が彼女に見えるって観察力不足」
例の彼女の麗子さんとの写真を見せて、雅也は笑っている。
「どういうこと?」
私は写真を見返しても二人が恋人同士に見える。
「この子、地下アイドルだから。これチェキだし、ライブハウスの背景でバレると思ったのに」
「え?じゃあ雅也はストーカー?」
「飛躍するな!そうじゃなくて、瑠奈が欲しいモノを聞き出すのに色々と策を巡らせてたんだよ」
「はい?」
「ネックレスとリップどっちもプレゼントするから、俺と…なんだその…」
「え、なに?」
「付き合ってくれ」
コタツの上にネックレスとリップ2つのプレゼントがある。涙でリップクリームを入れた紙袋の赤と白のギンガムチェックがぐにゃぐにゃに歪んでいく。
有名ブランドに似せた水色の小箱に入ったネックレスには白いリボンがかけられている。白のリボンの両端には銀色の縁取りがしてあって、その縁取りがキラキラ光って眩しい。
「ちゃんと言ってくれないから、こんなプレゼントしかないじゃん!」
号泣しながら、青と白のストライプ、不細工な編み目のマフラーを雅也に投げつけた。失恋したと思ったのに、昨夜は沢山泣いたのに、私の涙を返せ!よくも騙してくれたな!
「暖かいんだな、手編みって…」
雅也はお世辞にも綺麗とは言えない、編み目が不揃いなマフラーを首に巻いてから、泣きじゃくっている私をそっと抱きしめた。
「嘘ついて、ごめん。好きだよ」
私も雅也を抱きしめた。
「私も好きだよ、来年はもっと綺麗なマフラー編むから、それで我慢して」
「来年はセーターがいいな」
「無理だよ、マフラーも均等な幅で編めないのに」
「これ気に入ったからセーターも欲しくなった。でもさ、プレゼントが何かよりも瑠奈が隣にいることが何よりのプレゼントだから」
「気障な台詞…でも雅也に言われるならアリ」
「一緒にいてくれ、来年も再来年も、ずっとさ」
「今までも、ずっと一緒だったもんね」
「ああ、これからも。ただ、これからは彼女としてな」
「うん、彼氏として」
その後二人でケーキやチキンを慌てて買いに行って、クリスマス・イヴを満喫した。
クリスマス・イヴを三連休にしてくれた、日本の神、キリスト教の神、あらゆる神仏に感謝した。自分が楽しめるなら、最高のイベント。昨日はクリスマスなんて無くなれって言ったのが嘘のよう。
そしてまあ、人並みに恋人同士のエトセトラを体験させていただきました。見つめ合うと、気恥ずかしくてつい笑ってしまう所も、ノリが学生に戻ったり。彼氏になった雅也の寝顔。瞼に目を鼻の下に髭を書いて、朝起きてバレると、二人でゲラゲラ笑ってた。
「クリスマスのムードが台無しだろ?」
「私たちらしくていいでしょ?」
「まあな。今度は瑠奈のほっぺに真っ赤な渦巻き書くから覚悟して」
「うん、水性マジックにしてよね」
「油性にしようかな?」
「女子にはオイルクレンジングという武器があるから平気」
「女子呼びは十代が限界だと思う」
「あ、酷いなー」
こんな漫才みたいなやり取りがずっと続くといいな。私から貴方へ。幅が不揃いなマフラーと、とっておきの笑顔を。いつも、いつまでも一緒にいたいよ。
(終)
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