71人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふ~ん。たまたまねぇ」
本当にそうだった。凛とは歴とした単なる幼馴染なんだから。
「名取がすごい反射神経で、バックホームのボール避けてたね」
来栖川もそんなとこまで見てたのか、と返そうとした時、ちょうど目の前に校門が見えてきた。彼女とこんな風に気軽に話せるようになっているのも、卒業を控えた同級生同士の連帯感からくるものなのかもしれない。
話しながらゆっくり歩いたせいか、教室に入ってからそう時間も経たずにチャイムが鳴る。
キーンコーンカーンコーン。
「あっぶな、ギリギリじゃん」
来栖川は僕のすぐ後ろの席だった。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り終わるのとほぼ同時に、いつも通り時間ぴったり、担任の宮田先生が入ってくる。小太りで背が低く、見た目も中身も愛嬌のある先生だ。
「日直は?」
淡々とした先生の言葉に、圭介が素早く反応して号令をかける。
「起立!…………おはようございますっ」
圭介に合わせて、クラス全体でお辞儀をしながら言う。
「はい、おはようございます」
それに応えて宮田先生もM字に禿げ上がった髪を皆に見せびらかしながら、丁寧にお辞儀をし返す。
「先生が短髪なのやっぱりハゲ隠しかな?」
来栖川が余計なことを言う。が、せっかくさっきからの流れもあるし、と僕も付き合う。
「育毛剤選びに失敗して余計にハゲたらしいよ」
「プッ!くくく……先生らしいね」
彼女が笑った途端、先生がギロリとこちらに向かって睨みを効かせる。
「そこ。朝から賑やかだな」
まずい、変な目立ち方してしまった。
「はーい、すいません」
来栖川が素直に謝ると、圭介が嬉しそうに大声で冷やかしてくる。
「そうだぞ。朝は静かにするもんだ」
「うるさい、あんたが言うな」
即座に言い返す来栖川。教室がどっと湧いて、なごやかな雰囲気になる。窓際の一番前の席の憲ちゃんも苦笑していた。
「今日は皆に新しい仲間を紹介する。今校長先生に挨拶してるところだから、もうすぐ来るはずだ」
宮田先生からの唐突すぎるビッグニュースに、一同目を丸くする。
「先生、男?」
「可愛い女の子!」
「どこから来たの?」
卒業までそう大きなイベントは無いはずだったが、転校生が来るともなると話は変わる。皆から先生に向かって矢継ぎ早に質問が飛び交う。
「東京から来たそうだよ。ピッチピチの……男の子だ」
宮田先生の返事に、周囲から落胆の声が漏れる。
「なんだ、野郎かよぉ」
「東京の男の子なら、かっこよさそう」
「なんでこんな田舎に来るんだ?」
ざわつくクラス内の声を無視して、先生が教室の出入り口に目をやって言う。
「……そうだな、新木。空き教室から机と椅子持ってきてくれ」
「えー、なんで俺が……」
前の席になってから、憲ちゃんはやけに宮田先生の頼まれごとを任せられている。
「つべこべ言わない。……机に二人、椅子に一人要るな」
「じゃあ、有沢くんと名取くんがいいと思います」
憲ちゃんは人数がかかるとわかるや否や、すぐさま僕と圭介を指名する。
「おいおい、なんで俺が……」
「つべこべ言わない!」
圭介は難色を示したが、間髪入れず先生の言葉を真似て憲ちゃんが釘を刺す。
「行ってらっしゃい、名取」
来栖川が、笑いながらその後押しをする。
「……へーへー、わかりましたよ」
観念する圭介。後ろの方の席の凛達も、そのやりとりの様子がおかしくて笑っていた。
「いいか?祐樹」
憲ちゃんが、僕に同意を得ようと聞いてくる。
「うん、行くよ」
最初のコメントを投稿しよう!