第一章「転校生」

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「ふ~ん。たまたまねぇ」  本当にそうだった。凛とは歴とした単なる幼馴染なんだから。 「名取がすごい反射神経で、バックホームのボール避けてたね」  来栖川もそんなとこまで見てたのか、と返そうとした時、ちょうど目の前に校門が見えてきた。彼女とこんな風に気軽に話せるようになっているのも、卒業を控えた同級生同士の連帯感からくるものなのかもしれない。  話しながらゆっくり歩いたせいか、教室に入ってからそう時間も経たずにチャイムが鳴る。  キーンコーンカーンコーン。 「あっぶな、ギリギリじゃん」  来栖川は僕のすぐ後ろの席だった。  キーンコーンカーンコーン。  チャイムが鳴り終わるのとほぼ同時に、いつも通り時間ぴったり、担任の宮田先生が入ってくる。小太りで背が低く、見た目も中身も愛嬌のある先生だ。 「日直は?」  淡々とした先生の言葉に、圭介が素早く反応して号令をかける。 「起立!…………おはようございますっ」  圭介に合わせて、クラス全体でお辞儀をしながら言う。 「はい、おはようございます」  それに応えて宮田先生もM字に禿げ上がった髪を皆に見せびらかしながら、丁寧にお辞儀をし返す。 「先生が短髪なのやっぱりハゲ隠しかな?」  来栖川が余計なことを言う。が、せっかくさっきからの流れもあるし、と僕も付き合う。 「育毛剤選びに失敗して余計にハゲたらしいよ」 「プッ!くくく……先生らしいね」  彼女が笑った途端、先生がギロリとこちらに向かって睨みを効かせる。 「そこ。朝から賑やかだな」 まずい、変な目立ち方してしまった。 「はーい、すいません」  来栖川が素直に謝ると、圭介が嬉しそうに大声で冷やかしてくる。 「そうだぞ。朝は静かにするもんだ」 「うるさい、あんたが言うな」  即座に言い返す来栖川。教室がどっと湧いて、なごやかな雰囲気になる。窓際の一番前の席の憲ちゃんも苦笑していた。 「今日は皆に新しい仲間を紹介する。今校長先生に挨拶してるところだから、もうすぐ来るはずだ」  宮田先生からの唐突すぎるビッグニュースに、一同目を丸くする。 「先生、男?」 「可愛い女の子!」 「どこから来たの?」  卒業までそう大きなイベントは無いはずだったが、転校生が来るともなると話は変わる。皆から先生に向かって矢継ぎ早に質問が飛び交う。 「東京から来たそうだよ。ピッチピチの……男の子だ」  宮田先生の返事に、周囲から落胆の声が漏れる。 「なんだ、野郎かよぉ」 「東京の男の子なら、かっこよさそう」 「なんでこんな田舎に来るんだ?」  ざわつくクラス内の声を無視して、先生が教室の出入り口に目をやって言う。 「……そうだな、新木。空き教室から机と椅子持ってきてくれ」 「えー、なんで俺が……」  前の席になってから、憲ちゃんはやけに宮田先生の頼まれごとを任せられている。 「つべこべ言わない。……机に二人、椅子に一人要るな」 「じゃあ、有沢くんと名取くんがいいと思います」  憲ちゃんは人数がかかるとわかるや否や、すぐさま僕と圭介を指名する。 「おいおい、なんで俺が……」 「つべこべ言わない!」  圭介は難色を示したが、間髪入れず先生の言葉を真似て憲ちゃんが釘を刺す。 「行ってらっしゃい、名取」  来栖川が、笑いながらその後押しをする。 「……へーへー、わかりましたよ」  観念する圭介。後ろの方の席の凛達も、そのやりとりの様子がおかしくて笑っていた。 「いいか?祐樹」  憲ちゃんが、僕に同意を得ようと聞いてくる。 「うん、行くよ」
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