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プロローグ
「キィンッ」
暮れなずむ空に向かって、快音が響き渡る。男ばかりの野太い声に混じって、グラウンドの隣でバレーをしていた女子からも、にわかに黄色い歓声が上がる。僕はいい気になって、全速力で一塁ベースを蹴ると、砂煙を上げながらそのまま二塁目指して一直線に走り抜けた。
「おっほぉ~!飛んだ飛んだっ!!」
まぶしいからなんだろうけど、大げさに額に手をかざしながら、圭介は飛び立つ旅客機へ敬礼するかのように、ホームランボールを見送った。ちょうど僕が三塁ベースに差しかかろうとした時、サードの憲ちゃんが、そんな圭介を大声で野次る。
「打たれてるくせに、のん気な事言ってんじゃねぇよ!」
これには圭介も、負けじと応戦する。
「よっく言うぜ。自信満々でピッチャーやったくせに、あんまりパカパカ打たれるから、オレが仕方なく投げてやってんのによ」
にじりよる憲ちゃん。
「あー?何か言ったか、圭介」
「いや、なぁんにも。初回に3点も取られてちゃ、そりゃ野次りたくもなるだろうなって、言っただけさ」
「バカ。俺はホームランなんて一本も打たれてないんだよ。皮肉言ってごまかしたってムダムダ」
「はいはい、ごまかしてんのは憲ちゃんだろ」
圭介と憲ちゃんが火花を散らしているうち、ホームランゾーンからセンターがバックホームに送球してきた。だけど、もちろん僕はとっくにホームイン済み。元々2塁にランナーもいたから、2得点の働きだ。
とその時、センターの投げたボールが、ちょうど圭介の頭部めがけて飛んできた。
「危ないぞ、圭介っ!」
「だから始めっからオレが投げてりゃこんな……」
憲ちゃんの方へよそ見していた圭介は、僕が声をかけたのとほぼ同時にボールに気づく。
「おわっ」
瞬間、圭介は頭を大きく振り下ろし、すんでのところでこれをかわした。
「あっぶね~」
当たってもいない後頭部をさすりながら、地面にバウンドしながら転がるボールを見つめる。相変わらずの、反射神経だ。僕だったら今頃、頭を抱えて悶絶していただろう。
「ナイスセンター。いい肩してるな、惜しかったぜ」
謝りながら圭介にかけよってきたセンターの背中を、ポンッとたたきながら、憲ちゃんは嫌味たっぷりにそう言った。圭介が、僕の耳元でぼそりと囁く。
「憲ちゃんの場合、本気で言ってそうだから恐いよな」
僕は、大げさに鼻で笑ってみせて、それに応えた。
夕暮れ時、ゆるやかで長いこの坂道は、薄紅く染まったパノラマの町並みを見下ろせる、この村屈指の絶景スポットだ。金曜日というせいもあって、特に週末に予定があるわけではないのに、その景色は僕の心を、至極軽やかに高揚させる。例年通りうっとおしい暑さに彩られた夏もとうに過ぎ去り、今はもう、10月半ば。早くも冬休みが待ち遠しくなってきているという、あいも変わらない今日この頃。
「あ、金木犀」
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