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『アレ』の名は『唯我独尊』、私の分身であった。
私は唯我独尊から逃げた。
あんなバケモノが側にいれば誰も私に近づこうとはしないだろう。それはとても迷惑な話であった。
しかし、唯我独尊は私のことをどこまでも追いかけてきた。
私が墓所に行けば唯我独尊は祖父母の墓を破壊した。
私が寺に行けば唯我独尊は鐘や賽銭箱を破壊した。
そして、私が自宅に辿り着くと唯我独尊は徹底的に家を破壊し始めた。
ここで私は逃げることを止める。自分の家ならば存分に暴れて貰っても構わないと思ったからだった。
なにより、今は両親がいないのでチャンスであった。
自分の分身だといえ、ずっとこのバケモノから逃げ続けるのはくたびれたので腰を落として休もうと思った。
ここで唯我独尊が暴れる分には少なくても人様に迷惑はかからない。
ドゴーン、ガシャーン、ドゴーン!
自分の家が踏み潰される音を聴くのは実に心地が良かった。
だけど、ホッとしたのは一瞬だけであった。どこからかドシンドシンと地鳴りが聞こえてきた。
唯我独尊を見るとバケモノのくせに怯えていた。
何かがこちらに近づいて来る。
慌てて震動の元を確かめるとそこにいたのは唯我独尊よりも巨大な赤鬼であった。
赤鬼の手には金棒があり、金棒には顔がついていた。
それから、私は金棒の顔が母であることに気づいた。それに、赤鬼の顔は父であった。
暴力が好きな赤鬼の父と暴言を吐く金棒の母という最悪の組み合わせが家に帰ってきてしまったのだ。
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