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それを遠巻きに眺めていた光は、明らかに戸惑った様子で。ギターを持っていない光は、どこか自信がなさそうに見える。
「大丈夫だよ」
縁は光に頷いてみせた。
きっと、うまくいくと。
◇
シノは苛立っていた。確かに、同じ学年でギターを弾ける女子なんて、屋代光しか知らない。女子が楽器を嗜むと言えば、たいていはピアノだ。金持ちになればバイオリンをやる人もいると聞いたことはある。しかしギターという選択肢は、やはり男性的なイメージが強いらしく、クラスの女子にはそんな偏見をもった者もいるようなのだ。
「光の癖にギターだってさ」
「あの子、そんなキャラじゃなくない? まじ、おもしろいんだけど」
「ま、ちょっと目立ったところで、シノには視界にすら入れてもらえないのにね」
「そうだよねー」
その『シノ』が廊下から聞き耳を立てているなんて、彼女たちは全く気づいていないのだろう。シノは、忌々しげに曇りガラス越しに女子達を一瞥した後、重いギターケースを肩に背負い直して歩き出した。今日はスタジオに入ることになっているのだ。
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