詩乃と百足と狐とか

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 物の怪の世界に心がいくようになったのは、いつ頃であったか。詩乃(しの)は自分の体を嘗め回す、白い狐を見ながらぼんやり記憶を辿った。 「これは珍しいものを守護霊に持っておる」 夕方、家の裏にある公園に詩乃は一人でいた。話しかけて来たのは実体のない白い狐。 三歳児が一人で遊ぶことは、昭和の初めでは珍しいことではなかったが、それにしても詩乃の両親は放任が過ぎた。それも詩乃に対してのみ。 「お主の名前は?」 「詩乃。迎出(むかいで)詩乃」 「詩乃、覚えたぞ。ワタシは左近(さこん)と申す」 馬より大きな真っ白い狐の尻尾は、九つに分かれていた。江戸時代に伝説となっている九尾の狐であると後に知った。 「お前は百足(むかで)に守られておる。安心しろ」 そう言って左近は、フッと目の前から消えた。 詩乃が勝手口から家に入ろうとしていると、使用人のキヌに見つかった。 「詩乃お嬢様!どこにいらしたんですか?今日はお誕生日会やというのに」 「ごめんなさい」 「(はよ)う席についてもらわな困ります」 キヌは、詩乃を心配などしていない。自分が叱られることを心配しているのだ。 詩乃が食事の部屋に入ると、先程まで楽しげに聞こえていた会話がピタリと止まった。
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