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従姉妹のお姉ちゃんが結婚する。
近所に住んでいて、僕がちっちゃい時からずっと一緒にいたお姉ちゃん。保育園にも迎えにきてくれたし、運動会も見に来てくれた。何回も一緒にご飯食べたし、お風呂にも入ったし、お泊まりもした。
お姉ちゃんの苦手な虫をやっつけてあげた時も、お姉ちゃんが1人でお留守番していた時も、いつも僕がそばにいてあげた。
「僕がいつでも守ってあげるからね!」
お姉ちゃんはにっこり笑って頷いてくれた。
でも、お姉ちゃんは今度の土曜日に結婚する。お姉ちゃんと同じ大人のお兄さんだ。
僕より背が高くて、大きくて、何よりお姉ちゃんがお兄さんを見てずっと笑ってた。お兄さんも笑ってた。みんなみんな笑ってるのに、僕だけ笑ってない。
お姉ちゃんはそんな僕に気づいたのか、ソファーから立って僕の前に座ってくれた。
「コウくん」
と声をかけてくれて、僕の手に1枚の紙を乗せた。キラキラした模様が描かれた、綺麗な紙。そこにはひらがなで『けっこんしきのしょうたいじょう』て書かれてた。
「コウくん。コウくんにもお姉ちゃんの結婚式来てほしいな」
お姉ちゃんと招待状を何回も見て、僕は頷いた。ちょっとだけ、お姉ちゃんが泣きそうに見えたから。
それからお姉ちゃんはぱあって笑ってくれて、僕をぎゅっと抱きしめてくれた。あったかくていいにおいで、僕はちょっとだけ泣きそうになった。
※
「コウくん」
そのままお姉ちゃん達と夜ご飯を食べに行った時、お兄さんに声をかけられた。近くにはお姉ちゃんもお母さんもいるけど、ちょっと怖い。お父さんよりも背が大きいし、よく知らない人だから。
「……こんばんは」
小さい声になっちゃったけど、『あいさつはちゃんとする』ってお姉ちゃんとの約束の1つだ。
「こんばんは。コウくん、ちょっとお兄さんとお話ししてくれないかな。デザートでも食べながら」
僕はお兄さんの指差す先に、イチゴのケーキとチョコのケーキがあるのを見つけた。お母さんが「ここにあるお料理、好きなもの選んで食べていいよ」って言ってたから、デザートも食べていいんだ。
僕はお兄さんを見上げて頷いた。お兄さんもぱあって笑って「いっぱい食べよう」て言ってくれた。
お皿にケーキを3つも乗せて、僕はお兄さんの横の席に座った。ジュースも持って来てくれて、2人だけで乾杯をした。イチゴのケーキは甘く美味しくて、僕はペロッと食べちゃった。
お兄さんは笑って、僕の口の周りのついていたクリームを拭いてくれた。
「コウくんが結婚式来てくれるの、のぞみちゃんすごく嬉しそうだったよ」
のぞみちゃんていうのはお姉ちゃんの名前だ。僕はちょっとさみしい気持ちきなってフォークをお皿に置いた。
僕はのぞみちゃんなんて呼んだことないのに。
お兄さんはパクパクとケーキを食べて、コーヒーを飲んでた。そして「緊張するなあ」と笑って僕の方を見た。笑ってるんだけど、なんか困ってるようにも見える表情だった。
「のぞみちゃんがね、いつも言ってたんだ。コウくんが虫をやっつけてくれたとか、お家に招待してくれてご飯を食べたとか、運動会の招待状くれたとか、いつも話してくれてたんだ。だから、いつか会ってみたいな、て思ってた」
お兄さんはうーんて考えながら、僕に話しかけてくる。
「お兄さんもコウくんに負けないように、のぞみちゃん守っていこうって思ったんだ。ずっと、守ってあげたいって思ったんだ」
僕だって。僕だって思ってるよ、今だって思ってる。お姉ちゃんを守るのは僕だって。
言いたいのに、声に出せないのは何でだろう。僕は下を向いてぎゅって手を握った。ぎゅってしていないと、ダメな気がしたから。
「お兄さん、コウくんに負けないくらいのぞみちゃんのこと守るよ」
「——僕の方が、お姉ちゃんのこといっぱい好きだもん。今でもお姉ちゃんのこと守ってあげられるもん。でも、お姉ちゃんは僕じゃなくてお兄さんと結婚しちゃうんだ」
ぐって我慢したけど、やっぱり涙が出て来た。
くやしいくやしいくやしいくやしい。
どうして僕はこんなに小さいんだ。どうしてお姉ちゃんと同じくらいに生まれてこなかったんだろう。
僕は涙を拭いて、お兄さんの顔を見た。お兄さんは「ごめんねごめんね」と泣きそうな顔をして謝ってきた。ていうか、泣いてる。
僕はなんだかおかしくなって笑った。大人のお兄さんが泣くなんて。だからズボンのポケットに入れていたハンカチを貸してあげた。
「男の子は強くてかっこいいから泣いちゃダメなんだよ、お姉ちゃんに言われなかった?」
「……言われました」
「不安だなあ、こんな泣き虫なお兄さんと結婚するなんて。僕が守るって言ってたのに」
「……がんばります」
お兄さんはハンカチで涙を拭いて、僕の話を聞いている。その姿は、まるでお母さんに怒られてる僕みたいだったから、またおかしくなって笑った。
「お兄さん、僕の代わりって大変だよ? 虫はやっつけてあげないとダメだし、お姉ちゃん1人にしちゃダメだし、ちゃんとお誕生日にはプレゼントをあげて、ホワイトデーにもお返ししなくちゃいけないし。ちゃんと全部できる?」
お兄さんはびっくりしてたけど、当たり前のことばかりだ。それが出来ないならお姉ちゃんと結婚なんてできない、僕が許してあげない。
「そっか、コウくん、本当にのぞみちゃんのこと好きなんだね」
お兄さんは何か言っていたけどよく聞こえなくて、「なあに?」て聞いたけど、お兄さんは「何でもない」て笑ってた。
そして涙を拭いて僕の方を見た。もう泣いてなくて、とても一生懸命な顔をしていた。
「コウくんのしてきたこと、ちゃんと出来ます。約束するよ。男同士の約束。だから、のぞみちゃんと結婚させて下さい」
僕に頭を下げてお願いしてくるお兄さん。
知ってるよ。お兄さんがお姉ちゃんのこと好きなこと、お姉ちゃんもお兄さんのことが好きなこと。
「僕との約束守ってくれる? お姉ちゃん泣かせちゃダメだよ? 男の子は大好きな子を守らないといけないんだから」
「約束するよ、男同士の約束」
「じゃあいいよ。お姉ちゃんと仲良くしてね」
なぜかお兄さんはさっきよりたくさん泣いて、お姉ちゃんも僕に抱きついて泣いていた。
僕は2人をいい子いい子してあげて、ぎゅって抱きしめてあげた。
※
結婚式の日。
僕もお父さんみたいなかっこいい服を着て、髪の毛もツンツンさせて、少しだけ大人になった気がする。
「お姉ちゃんのところに行こうか」
お母さんに言われて、大きなドアを開けた。そこには真っ白のドレスを着たお姉ちゃんがいた。キラキラしててフワフワなドレスを着て、手には花束を持っていた。
今まで見た中で、1番綺麗で可愛いお姉ちゃんだった。
お母さんは僕をの肩を叩いて、「行っておいで」と背中を押してくれた。
僕はお姉ちゃんの方へ歩いていくと、お姉ちゃんも気付いてくれてぱあって笑ってくれた。きっと天使や妖精ってこんな感じなんだろうなって思う。
「コウくん来てくれてありがとう」
僕はこくんと頷く。ドキドキと心臓の音がする。でも、僕は男の子だから、頑張るときは頑張らないといけない。
僕は後ろに隠していたお花をお姉ちゃんにプレゼントした。
お母さんとお花屋さんで選んできたバラのお花。真っ赤な色が綺麗で、お姉ちゃんに似合うと思って1本買ってきた。
「お姉ちゃん、結婚おめでとうございます」
お姉ちゃんは一瞬怒った顔みたいになったけど、すぐにクシャクシャの顔になって泣いてしまった。最近のお姉ちゃんは泣き虫だ。
おばちゃんは「困ったお姉ちゃんだね」て言って泣いてるし、お店のお姉さん達は慌ててお姉ちゃんのお化粧をしたり、なぜかお兄さんも泣いてたり。
「みんな泣き虫だね」
て言ったら、みんなが笑った。
お姉ちゃんはお化粧をしてもらっている時に、僕のあげた赤いバラをお店の人に見せて話ししていた。
そうしたら、お店のお姉さんはそのバラをお姉ちゃんの髪飾りの横に飾ってくれた。キラキラ光る髪飾りの横に僕のあげた赤いバラが1つ、白いドレスにとっても似合ってる気がした。
お姉ちゃんは僕の方を見て、赤いバラを指差して「似合う?」と聞いてきた。僕は何度も何度も頷いて、「お姉ちゃんが世界で1番綺麗!」と叫んでしまった。
そのあとの結婚式でもパーティーでもずっと赤いバラを付けててくれたお姉ちゃん。自慢げに赤いバラを触りながらお友達と話してる姿を見ると、プレゼントして良かったって思う。
まだ、お姉ちゃんと結婚できなかったくやしさはあるけど、お姉ちゃんがたくさん笑ってくれてるならいいかなって思う。
でも……やっぱり今日だけは泣いてもいいかな。僕はお母さんに手を繋いでもらって、少しだけ泣いた。
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