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A long time ago「Ⅰ」
「四面楚歌だ」国王は天を仰いだ。「完全に孤立した」
群雄割拠の時代でも、どこに与することも争うこともなくやってきた。我が身以上を望まぬこと、民を安らかに統治すること。ただひとつの思いは平和。それがこの国王の矜持だったから。
しかしその思いは、突如押し寄せた武装軍団に奪われることになる。
「敵は地上最大の武装国。まさかこのような小国を標的にしてくるとは……」部隊長が悔しそうに口を引き結ぶ。
「肥沃な地ゆえでしょうな」宰相がつぶやく。
「助けは来ぬのでしょうか」大司教が国王を見る。
「どうしてこんなことになるのだ──長らくの同盟はどうなったのだ!」王子が周りを責めるように口を開く。
国王が臣下を見渡し苦そうに口を開いた。
「みな我が身が大事なのだ。それを責めることはできぬ。それぞれがそれぞれの民を抱えているのだからな。皆の者、辛いであろうが臣民に伝えよ。天の助けはなかった。妻や娘が辱めを受ける前に、ここで一緒に討ち死にすべしと。さあ、恥のない最期を遂げようではないか。戦いに備えよ」
「国王さま」衛兵が走り込んできた。「不思議な一隊がやってきます」
「不思議な一隊とな? どういうことだ。新たな侵略者か?」
「鎧もつけずに馬に乗っています」
またひとり衛兵が走り込んできた。
「こちらに向けて馬を走らせています」
「迎え撃て!」
「一騎だけです」
「なんと──」国王は立ち上がった。「攻撃してはならん! 行って理由を問え」
「開門せよと声を上げています!」新たな衛兵だ。「助けに来たと、そう申しております」
「鎧も纏わず助けに来たとは──いかがしますか国王さま」
「会おう」
「危険です」
「ひとりなのであろう? 向こうの方がよほど危険を冒している。して、後続の一隊との距離は」
「遥か後方で止まっています。敵国も判断しかねて手を出しません」
「ここへ呼んでくれ。くれぐれも無礼のないようにな」
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