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A long time ago「Ⅲ」
馬だけを城内に入れた男たちは、槍を構え剣を抜いて待ち構える敵軍に向けて歩いていく。
「気は確かかおまえたち」ひときわ大きいあざけりの声がする。
その声を合図のように、男たちも剣を抜いた。
「国王様、男たちの剣を見てください。黄金色に輝き始めました」
「おぉ! なんということだ。ここから見ても眩いばかりではないか」
他の男たちより頭ひとつ大きい男が、とりわけ長い剣を抜いた。
「イシュリムをあざけって生き延びた奴はおらん! 引き返すなら今しかないぞ」
「笑止!」敵軍が前進を始めた。男たちは走る。その数、百対二万。
互いの距離を縮めてゆく。とそのとき、四方に散った男たちが走りざま剣を振った。
「な! なんということだ。まだ近づかぬうちに敵軍が斬り倒されてゆくではないか」
右へ左へ、甲冑ごと斬られた胴体が血飛沫を上げて飛ぶ。男たちに近づくことすらできずに斬り倒されてゆく。
「国王様! これは勝つやもしれませぬぞ」
「ネイトン! 敵の背後に回るぞ! 左から斬り抜ける」男ふたりが敵の厚い壁をみるみる斬り崩してゆく。
「あの方たちは人ではない。もはや闘う神」
日が傾き始めたころ、やがて敵軍は敗走を始めた。
「ひとりたりとも逃がすな! 侵略は悪である!」
イシュリムの声に男たちが地鳴りのような声を上げた。
宣言通り、男たちは手にした剣一本だけで武装軍団を殲滅させた。
休むことなく数万を斬り倒すとは、なんと強靭な体をした百の男たち。一人で二百は斬った勘定になる。
「どのようなお礼をすればよいのでしょうか」国王がイシュリムに泣かんばかりに尋ねた。
「礼? そんなもののために我らは動いたのではない。よき国を保ちなされ。この地も我らが治めたならば争いのない土地になるであろうが、さすがに手が回らぬ」
イシュリムの言葉に国王以下が深く頭を下げた。
「お世継ぎは?」
「これにございます」国王が王子の二の腕を取った。
「無礼であったと耳にした」
「も、申しわけありませんでした」イシュリムの言葉に恐れおののき、体を震わせ詫びる王子。
「それでもなお、救うべしと進言してきた男がいたことを忘れてはならない。まぁ、我らが出で立ちを見れば無理もないが……王を見習い、よき国王になりなされ」
イシュリム率いる闘う部族。彼らはやがて、荒野に出現した見えない敵と闘うことになる。
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