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遥けき荒野
枯れ草色の砂礫が続く荒野には、今日も乾いた風が吹き抜けていた。
南中の陽は大地を照りつけ、雲ひとつない紺碧の空が果てなく広がっている。
「ミランダ!」背後からの声に振り向くと、ラクダに跨がるミネラが大地を指差した。この辺りはラクダが食べる草が生えている。
ミランダより二つ年嵩のミネラは、男らしい体躯や顔つきに似合わず、控えめで律儀だ。ミランダが女であるにもかかわらず、常に一歩引いて前に出ようとはしない。曽祖父たちの間に存在した関係性を崩そうとはしないのだ。
「ここらでひと休みしよう」
呼びかけにミランダはうなづきラクダを降りた。そして、まぶしい空を手庇で仰ぎ、ミネラとミランダの曽祖父たちがかかわった荒野の闘いに思いを馳せた。
遥かに遠い昔、我が部族を含めた荒野の民全体に存亡の危機が訪れたのだという。
その当時は村ももっと多く存在したそうだが、生き残った部族同士が合流してその数も減った。
ミランダが物心ついた頃の曽祖父イエナは、もう部族の長をとうの昔に退き歳をとっていた。暇をもてあましていたイエナは、ミランダを捕まえては問わず語りを始めた。
どこまで真実であるかはわからなかったけれど、似たような話はミネラの曽祖父であり、イエナのよき友であったクロンも語り、ミランダの曽祖母シェリも口にしたから、ほぼ間違いのないことなのだろう。
ミランダはその話が大好きだった。身振り手振りを交えて語られる物語は、まるで今、我が身が体験している闘いであるかと錯覚を起こしそうだった。女児でありながらも心が踊った。
しかしもう、大好きだったイエナはこの世にはいない。宵の迫るころにはイエナの残していった獣の毛皮を膝に掛け、夢を見るように微笑んだ曽祖母シェリも後を追うように地上を去った。
「ミネラ、イエナ爺とクロン爺はあの世で何をしているのだろう」
「それはもちろん、我らが旅と荒野の民の無事を見守っているでしょう。シェリさまも」
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