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似て非なるもの
「であるならシャメーナ様、我らはどう闘えばよいのでしょうか」イエナはすがるように見上げた。
「魔物が発する邪気に呑まれぬようにすることだ。己の邪心に負けぬようにすることだ。闘うための方策はない。それはイシュリムでさえわからぬであろう。ひとつあるとすれば、己を捨てて人を救わんとする心だ。それは魔物が持ち得ぬ光である」
イエナはシャメーナを見つめた。自分はなにをくみ取ればいいのだろう。どう闘えばいいのだろう。答えは出ない。シャメーナの目はただ、慈悲深さをたたえていた。
「イエナよ、私の言うすべてをわからずとも良い。今は死力を尽くして魔物と闘え。力ある者が闘う時、剣の先にさらなる幻想が見えるはずだ。精神の力が強いほどその幻想は生々しい。
己が見える者もある。父が見える者も母が見える者もある。まさかと思える幻想を斬るのだ。ためらわず斬るのだ。そこに立ちはだかるのが我が子であっても斬るのだ。これは過酷な闘いである」
「さらなる幻想と闘うのでございますか」
「そうだ。かつてイシュリムが率いて闘ったものと大元は同じであるが、似て非なるものと言えよう。より酷くなっていると言うべきだろう。目の前に誰が立っても狼狽えるなと皆に伝えるがよい」
「シャメーナ様、この荒野の部族は死に絶える恐れがございます。その幻想とやらに滅ぼされるやも知れません。シャメーナ様にお出まし頂くわけには参りませんでしょうか」
「イエナよ、あの古木が見えるか」シャメーナが指さす先に枯れた大木が見えた。
「はい」
「あれが、シャーマン・シュムランである」
「あちらにお眠りですか」
「違う。あの古木そのものがシャーマン・シュムランなのだ。シュムランも私も人ではないのだ。シュムランがそうであったように、雨が降ろうと風が吹こうと私もここに立っている」シャメーナは、諭すように両手をひろげた。
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