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クロン
「シャメーナ様、いったいどういうことなのでしょうか」
「木に宿った魂だと言うことだ。私が役目を終えここを離れた時、ここに枯れた木が立っていることに人々は気がつくだろう。だからイエナよ、ここを離れることはできないのだ。私はお前たちの闘いをここで見ている。クロンよ」
呼びかけられたクロンはビクッと肩を震わせた。
「はい、お名前をお呼びいただき光栄にございます」
「お前はイエナの親族ではないか」
「あ、はい、そうでございます」
「忘れていることはないか」シャメーナは思い出せと言わんばかりに、開いた片手をクロンに向けた。
「はい?」クロンは狼狽している。
「お前も剣を操る一族の子孫であるということを忘れてはおらぬか」
確かにそうだ。イエナはそのことをすっかり忘れていたことに気がついた。
「は、確かにそうでございます。それを失念いたしておりました」クロンが頭を下げる。幼い頃より兄弟のように、あるいは年の近い友のようにして育ったイエナとクロンは、実際の親族であることをそれほど意識したことはなかった。
「お前の先祖の剣は失せている。お前は一足先にここを出て剣を打ってもらうがよい。この闘いに剣の使い手が多すぎるということはない。
そしてクロン、イシュリムに言うがよい。ネイトンに影のように付き従っていた男の子孫だと。それで通じる」
「はい」クロンが強く頷いた。
「シャメーナ様、実は剣の打ち手が腕に怪我を負いまして、おそらく作業が遅れております。クロンのものにまで手が回るかどうか」イエナは口にした。
「心配はいらぬ、刃を付ける前の剣ゆえ傷は浅い。クロンの剣を優先させよ。私がそう言っていたと伝えずとも、イシュリムはそうするだろう」
「ではクロン、シャメーナ様の言われた通りにしよう。今ここでひとりでも剣の使い手が増えるのはありがたいこと、ましてやそれがお前であるならどれほどか心強かろう」
では早速。木の切り株から立ち上がったクロンは馬にまたがり、急ぎイシュリムの村へと向かった。
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