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魔物の居場所
「シャメーナ様、ふたたび伺います。我々はどこへ向かえばよいのでしょうか。どこに行けば魔物と出会えましょう。今どこにいるのでしょうか」
「そこでもない、ここでもない、あちらでもない。魔物は幻想であると教えたばかりではないか。魔物は移動するのではなく、湧いて出るのだ。彼らの最大の敵はイシュリムだ。イシュリムの村で待てば、やがてやってくるだろう」
「村の近くでは村人が危険なのではないですか」
「魔物はイシュリムの村へは入らぬ。彼の発する気はそれほど強いのだ。そもそも魔物に近いも遠いもない。イエナよ、自信がないか」
「はい。恥ずかしながら、その幻想とらやと闘う自信が私にはないのでございます。勝てる自信がないのです」
「イシュリムがなぜ強いのか、教えて欲しいか?」シャメーナの問いにイエナは頷き、その目を見つめた。飲み下した唾が、耳の奥で音を立てた。
「むろんイシュリムは剣の始祖ではない。彼とて初めて手にした剣を握りしめ、武者震いをしながら闘いの場に立ったことがあったのだ。やがて長じて闘士を率いるようになってから、負けたことがない」
シャメーナは、ここまではわかったかと言いたげな顔をした。イエナは黙って頷いた。
「イシュリムは負けるなどとは思ったことがないのだ。負けたくないと思えば、負けるときもあろう。勝ちたいと思えば、勝てぬときもあろう。
イシュリムはただ、剣の前に敵はないと、なに疑うことなく思っているからこそ不敗を誇っているのだ。どんな敵であろうと我は無敵だと、口元に笑みさえ浮かべるからこそ勝つのだ。これが答えだ。お前の恐れはわかる」
シャメーナは小さく頷いた。
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