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シュムランの言葉
「闘いの二日目、夜もまだ明けきらぬ頃、ネイトンもあの古木の前でひざまずいた。彼もまた不安に駆られていたからだ」
「ネイトンも死を恐れていたのですね」
「いや、違う。ネイトンの恐れは、荒野の民を守りきれるだろうかということにつきた。むろん、死を恐れぬ者などいない。しかし、ネイトンの問いは違っていた。
我が部族を、この荒野のあらゆる民を守れるであろうかとシュムランに訊いたのだ。イエナよ、恥じることはない。死を恐れぬものなどおらぬのだ。シュムランが最後に、ネイトンに贈った言葉をお前にも贈ろう」
「はい、お願いいたします」
「大いなる因果を、お前個人の力で動かすことはかなわぬ。かなわぬものの結果を恐れることは真に無意味である。どう転ぼうと、それはお前にとって最良の道なのだ。何事にも、何者にも、恐れを抱くではない。逃げることなく今をひたむきに生き、ひたむきに闘え」
「ありがとうございます」
「ゆけイエナよ。もし闘いのさなかに私の声が届いたなら、耳を傾けてくれ」
「シャメーナ様、感謝いたします」
「最後に、これは私からの言葉である。苦しい時ほど喜べ、辛い時ほど笑え、幻想をしなやかに受け止めよ。それがピシュヌ神の願いである。悔いの残らぬ闘いを祈っている」
礼を述べ、イエナはイシュリムの村へ馬を向けた。
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