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幻想のセブナ
「おじちゃん後ろに!」叫ぶセブナの声に、イエナは屈み込み振り向きざま剣を払った。
骨を震わすような衝撃と共に黒々とした塊が宙を舞い、音もなく散った。急速に雨雲が去るように、その塊も瞬く間に消えていく。
礼を言おうと振り返ると、セブナが剣をこちらに向けている。イエナはふたたび剣を振ったが手応えはなかった。前を向くとセブナは剣を構えたまますり足で近づいてくる。
「セブナ、私の後ろにまだ魔物がいるのか?」イエナの問いにセブナは無言だ。
もしや、これが幻想か?
「セブナ、戯事はやめてくれ」イエナの声も届かぬように、じりじりと間合いを詰めてくる。
斬れるのか? まかり間違えてセブナ本人だったらどうするのだ。
「セブナ!」イエナは後ずさる。
剣を振りかぶり躍りかかってきた。横飛びに転げるように避けた。そのとき、視界の隅で剣を振るうセブナの姿が見えた。
イエナは立ち上がり走った。大地を蹴り大上段に斬りかかった。
手応えを残し、二つに割れた真っ黒い塊が地を這うように飛び散った。
「おじちゃん、大丈夫だったぁ⁉」
前髪を風に立てながらセブナが走り寄ってくる。背後の魔物を知らせる声は、本物のセブナだったのだ。
「セブナ、見えるのか⁉」
「見えるよ、たくさんいる!」
イシュリムは、邪気のない子供には魔物が見えるなどとは言わなかった。だとするならセブナ特有のもの。なんという能力。
「斬っても減らない! おじちゃん後ろ!」
横飛びに避けたイエナは振り向きざまに天に向けて剣を振り抜いた。しびれるような手応えを残して黒い塊が宙に散った。
「やられた!」
イシュリムの悲痛な声が聞こえた。もしや魔物に! イエナは結界の方を見た。そのイシュリムは仁王立ちをしている。残る闘士十一人も半分腰を上げかけている。イシュリムは杖をつきながら結界を出て歩いてくる。
「三人もやられてしもうた! 三人も死んでしもうた!」肩を怒らせ眉はつり上がっている。
「イシュリム様、お戻りください!」イエナは叫んだ。
「イシュリムはここじゃ!」声を張り上げ、なおも歩いてくる。
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