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帰陣
朝に始まった闘いは、昼が過ぎ夕が訪れても終わる気配はなかった。魔物は斬っても払っても一向に減っていく様子がない。
「帰陣じゃ! 村へ入れ!」立ち上がったイシュリムが声を上げた。
「お前たちは援護に回れ。頼むぞ!」
「はい!」
結界で休んでいたイエナたちは剣を片手に走り、夕闇の迫る荒野に剣を向けた。闘っていた男たちはそれを見て、村へ向けて走った。
帰り着いたのは十九人だった。イシュリムの怒りに火をつけた三人目から、さらに一人が命を落とした。松明を持った村の男たちがその亡骸を回収して手厚く土に葬った。
「闘いが終わったばかりの者たちは休んでいるがよい」イシュリムが声をかけた。そうはいかずと、大地に横たわっていた男たちが起き上がってきた。
「まだ若いというのに、哀れよ……妻子がおらぬことがせめての救い。次は普通の部族に生まれるがよい。それまで安らかに眠れ」土が被せられてゆく遺体に、イシュリムが呟いた。
みなが手を下ろした後も合掌の手を解かないイシュリムの姿に、心揺すぶられた。
「妻と子のある者たち」振り向いたイシュリムがひと呼吸おいた。
「わしの指示など気にすることはない。力尽きる前に結界に戻れ。誰も責めぬ。もっと灯りを焚け! 弔いの火じゃ!」イシュリムの声に応じて、村のかがり火が夜空を焦がすように赤々と燃える。
「イシュリム様、斬っても数は減らぬようです。我らに勝ち目はあるのでしょうか」イエナは心底の恐怖からイシュリムに尋ねた。
四人目の闘死者をイエナは見た。その男が魔物と対峙して剣を振るうさなか、前方に血飛沫を上げながら斜めに切断された瞬間だった。姿も見せず気配さえ感じさせず、後ろからいきなり斬り込まれたらひとたまりもないのだ。
「確かに増えてくるように見える。だが、斬った分だけ確実に減っておる。だからこそ、わしやネイトンたちは奴らを根絶やしにして勝利したのだ。真に強いものはそれほど増えぬもの、弱いからこそ数を頼む。虫や地を這う生き物と同じじゃ」
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