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ネイトンとスメロ
「有効な闘い方はないのでございますか。ネイトンはどう闘ったのでございましょう」
「イエナよ、あればとうに教えておる。此度の闘いにおいて、昔の勇者と肩を並べるのは一握りしかおらぬ。
イエナよ、己と剣を信じるのだ。己を信じぬ者をいったい誰が信じるのだ。我らが剣は紛うことなき無敵なのだ。それを振るう己を信じ切れ」イシュリムは噛んで含めるように口にした。
「だが、明日も被害が出るであろう」
イシュリムが苦い顔で夜空を見上げた。頼るは己の精神力と腕ひとつ。イエナは分かりましたと呟いてその場を辞去した。
「おじちゃん、あたしを斬ったんだって?」セブナが笑いかけてきた。
「誰に聞いたんだい?」
「クロンのおじちゃんに。あたしがおじちゃんに剣を向けるなんてあり得ないから構わず斬って。ためらってると命を落とすよ」
「分かったよセブナ。それにお前を斬るほどの腕はないという当たり前のことに、いま気がついたよ」イエナは苦笑した。
「そんなことないよ、おじちゃんはなかなか強い。あたしの父さんといい勝負をするかも知れないよ」笑ったセブナは、じゃね、もう寝ると走り去った。
弔いを終えた男たちが、ふたたび大地に横たわったり座り込んだりしている。日暮れまで闘っていた男たちの疲れはまだ癒えない。
「スベラ殿大丈夫か」イエナはそばに座り込んだ。
「ああ、イエナ様、ほんのちょっと疲れているだけにございます」スベラは薄く笑った。立ち上がる気力も体力も残っていないのだ。それほどまでに過酷な闘いだった。そしてこれは、まだ初日だった。
「しかし」スベラは目を閉じたまま口を開いた。
「イシュリム様は、桁外れの強さでございましたな」
「うむ、飛びもせず走りもせず、ただのしのしと歩くだけで斬り捨てていった」
「イシュリム様より強かったというネイトン様は、いったいどのような闘い方をしたのか見てみとうございましたな」スベラは遠く思いを馳せるような顔をした。
「そのネイトンと双璧をなしたという、スベラ殿のご先祖スメロ様の闘いぶりもな」
イエナの声に、スベラはうっすらと微笑んだ。
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