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襲来
イエナの腕と肩は火照り、骨には魔物を斬って捨てた衝撃の残滓がこびりついている。濡らした亜麻の布で、シェリがそれを冷やしてくれていた。
セブナに続いて斬ったのが誰であったのかはクロンにさえ言えなかった。
「お疲れでございました。イエナはお母様を斬ったのではなく、魔物を斬ったのでございます。お気に病まぬようにしてくださいませ」
確かにそうだ。しかし、母は剣ではなく、湯気の上がる椀を両手で捧げるように持っていたのだ。飛びかかり、それを斬った。斬られた瞬間、悲しい顔をした。
母の最期を看取っていないイエナにとって、その幻想は真実味を帯びていっそう心に重かった。イエナは眠る我が子の頬を撫でた。
その時だった。腹に響くような叫び声が村に轟いた。
「シェリ、子を抱きなさい」
来た、ついに村の中にも魔物がやってきたに違いない。イエナは剣を手に外に飛び出した。
かがり火の中、胴を真っ二つにされ、腹から内蔵とともに血を噴き上げる男がいた。下半身を大地に、上半身を木の枝にぶら下げた男は果てていた。
「イシュリム様! ティエン殿! セブナ!」呼びかけに声は返ってこなかった。
「スベラ殿! クロンどこにいる!」
イエナは剣を抜き、かがり火の燃える中を走った。やがて広場に男たちが剣を構えているのが見えた。
男がひとり剣を振り上げ躍りかかる。それは空を切った。走り込んだイエナは見えない敵に斬り込んだ。だが手応えはなかった。
この村にはおよそ二百人の村人に加え、難を逃れた他の村の者たちが五十人ほどいる。いまここで剣を使えない男や女や幼な子たちに魔物が襲いかかったら、瞬く間に屍の山が築かれる。
「イシュリム様はいずこに!」イエナは背中合わせに立ったひとりの男に尋ねた。
「まだ騒ぎに気づいていらっしゃらないようです!」
「誰かイシュリム様を呼びに行ってはもらえぬか!」
〈イエナ、イエナ、聞こえるか〉そのとき、頭の中で声が響いた。
〈もしや、シャメーナ様ですか〉
〈いかにも〉
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