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剣を手にしたシェリ
「イシュリム様、結界の周りに何か見えますか」イエナは寝返りを打ち、斜め前方に座るイシュリムに小さく問いかけた。
「何も見えてはおらん。そもそもここには手出しはできん」やはりイシュリムには聞こえてもいず、見えてもいない。
やりとりを理解したクロンが起き上がり、結界を出て剣を振りかぶるのと相手が剣を振りかぶるのが同時だった。漆黒の剣と黄金色の剣がぶつかり空中にまばゆい稲妻が走った。クロンは後を追った。
「追うなクロン!」イエナの声にクロンが止まった。
「クロン、近くに魔物が見えても追うな! 今は休め」事情を知らぬイシュリムの声がした。
「難儀にございます」戻ったクロンが呟き横になった。イエナは眠りに引きずり込まれていった。
「イエナ様! 幼子様が!」クロンの緊迫した声でイエナは目が覚めた。
「危のうございます!」クロンは結界を出て走っていく。イエナもすかさず飛び出した。
クロンの後ろ姿の向こうに我が子が見える。
「危ない! 危ない! 戻りなさい!」シェリが叫びながら後を追ってくる。これは幻想か本物か……しかし、イシュリムに尋ねている間はなかった。イエナはさらに走った。
「シェリ様! 幼子様!」呼びかけた直後、クロンの体が宙を舞い四肢をくねらせて大地に落ちた。
「クロン!」イエナは走り寄る。クロンはうつぶせに倒れ身動きひとつしなかった。
「クロン、何ということに……」
顔を上げた先にシェリが見えた。その手に剣を手にしたシェリが立っている。その横には我が子があどけない笑顔を浮かべている。
「シェリ、お前が斬ったのではないね」イエナの問いに、まさか、と驚いたようにシェリの口が動く。
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