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シャメーナの声ふたたび
「シェリ、なぜ剣など持っている。それを捨てなさい! 早くイシュリム様の村へ戻るのだ!」
「はい、この剣は落ちておりました。どなたかがお亡くなりになったのではと……それで村へ持ち帰ろうと思い、拾いました」それは確かに闘う部族の剣だった。
事の重大さに、シェリの瞳は定まることなく揺れていた。
「申し訳ありません。娘を寝かしつけておりましたらこちらも眠ってしまい、いないことに気がつくのが遅れて……それにクロン様がこんなことに、すべてわたくしのせいです」
「それより早く戻りなさい!」
シェリは、はいと頷き頭を下げた。
〈イエナよ、斬れ!〉シャメーナの声がした。
「シャメーナ様、あれは我が妻子にございます!」
〈違う! イエナよ斬るのだ!〉
「しかし、紛れもなく我が妻子でございます!」
〈おかしいとは思わぬのか? あのような幼子がここまで歩いてくると思うのか? つかの間とは言えぬ時が過ぎたはず。お前の妻はそこまで間が抜けてはおるまい。あの二人が村へ入ったらひとたまりもないぞ〉
子を抱き、急ぎ足で遠ざかるシェリの後ろ姿をじっと見つめた。
〈早く行かぬと手遅れになる!〉
そのとき、シャメーナの声が頭の中を外れて、シェリの走り去る方向から聞こえた気がした。
イエナは再び問いかけた。
「それはまことなのですね」
〈私が嘘をつくと思うのか〉
イエナは走った。耳元で風が鳴る。シェリの背中がみるみる近づいてくる。間合いを計り、剣を振り上げ宙を飛んだ。
おのれ! 着地する寸前に肩口から剣を振り切った。手応えを感じ、黒い魔物が二つに弾け飛んだ。
「急ぎなさい!」イエナの声にシェリはさらに足を速めた。妻子の後ろを走りながら、右へ左へと剣を振り続けた。シェリと子は無事にイシュリムの村へ入った。
「申し訳ないことをいたしました。どうぞご無事のお帰りを」シェリが頭を下げた。
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