26人が本棚に入れています
本棚に追加
鼻
「それ……でございますよね」
「そう、これです」イエナは指さした。
「意図せぬ所を指さしておいででなければ、鼻、でございますが」
「鼻? ほお」指先でつるりと撫でた。「なるほど鼻でございましたか」
「はい。特別なにかがついていたりもしておりません」
「ならば取ってもらうわけにもいきませぬな」
女は珍しいものでも見るように、再び小首をかしげ、細いあごを突き出した。
「オアシスの湧く町に行ったことは?」
「一度だけございます」
「あの清冽な泉にも劣らぬほど美しい瞳だ」イエナの声に、女は驚いたように目を丸くした。
「本日はこの村に来たかいがありました。またお会いできることを」イエナは立ち上がり、ひとつ頭を下げた。
「気が合わぬようであったか」ラクダに揺られるシビルの言葉にイエナは頷いた。
「あのような女は気に入りませぬ」
「そうか」シビルは苦笑混じりに頷いた。
「向こうから舞い込んだ話じゃ、やんわりと断っておこう」
「ただ、気になる女がおりました」
「ほう、あの場にいたのか!」シビルが弾かれたようにイエナを見た。
「はい。娘に仕えていた女です」
「端女か、お前はそんな女を嫁にする気か」前方に視線を戻し、軽蔑したかのようにあごを上げた。
最初のコメントを投稿しよう!