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「それ……でございますよね」 「そう、これです」イエナは指さした。 「意図せぬ所を指さしておいででなければ、鼻、でございますが」 「鼻? ほお」指先でつるりと撫でた。「なるほど鼻でございましたか」 「はい。特別なにかがついていたりもしておりません」 「ならば取ってもらうわけにもいきませぬな」  女は珍しいものでも見るように、再び小首をかしげ、細いあごを突き出した。 「オアシスの湧く町に行ったことは?」 「一度だけございます」 「あの清冽な泉にも劣らぬほど美しい瞳だ」イエナの声に、女は驚いたように目を丸くした。 98f8b345-7ce4-496a-b3f4-5dd3122ba0a5 「本日はこの村に来たかいがありました。またお会いできることを」イエナは立ち上がり、ひとつ頭を下げた。 「気が合わぬようであったか」ラクダに揺られるシビルの言葉にイエナは頷いた。 「あのような女は気に入りませぬ」 「そうか」シビルは苦笑混じりに頷いた。 「向こうから舞い込んだ話じゃ、やんわりと断っておこう」 「ただ、気になる女がおりました」 「ほう、あの場にいたのか!」シビルが弾かれたようにイエナを見た。 「はい。娘に仕えていた女です」 「端女(はしため)か、お前はそんな女を嫁にする気か」前方に視線を戻し、軽蔑したかのようにあごを上げた。
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