残夢に揺蕩う

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「お金を支払って怒鳴られるのは、この業界だけですよね」 仕事終わりに飲みに行くと、先輩は毎度そんな愚痴を零す。 「そんなこと外では口が裂けても言うな。単純な企業と顧客の関係性ではないんだ。俺たちは医療機関と持ちつ持たれつの関係にあるんだから、そこは決して履き違えるなよ」 愚痴を零した先輩は、更にその先輩に(たしな)められる、というのがお決まりの図式だ。 私は6年制の薬学部を修了し、製薬企業に就職した。 そこで兼ねてより志望していた臨床開発職、一般的にはCRA(Clinical(クリニカル) Research(リサーチ) Associate(アソシエイト))と呼ばれる立場で、癌領域の新薬開発に携わっている。 新薬が医療機関で使用可能となるためには、国の承認を得なければならない。 その国の承認は臨床試験、要するに治験で得られた有効性や安全性に関するデータとその立証を(もっ)て行われる。 私はその、新薬を製品化する上で必要不可欠な臨床試験が適切に行われているか監視(モニタリング)し、症例データの収集や進捗状況の管理を行う業務を担っている。 ビジネス的な図式を描くと新薬になる可能性を秘めた種も持つ製薬企業が、臨床試験を実施できる医療機関に協力を依頼する。その際に研究費用という名目で企業から医療機関に費用が支払われる。 こと日本において、製薬企業と医療機関の関係性は複雑化しており、私たちは医師に頭が上がらないといった状況が日常である。
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