何たる不覚

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何たる不覚

「俺とした事が何たる不覚…」  大学に入ったは良いものの仕送りが少なくバイトに明け暮れていた為、一回生時の必修科目をひとつ落としていた事に気が付いたのは地元の企業に内定した後だった、卒業単位には足りてはいるが必修科目なので必ず受けなければならない、4回生にもなって1回生と同じ授業を受ける羽目になるとは…。  (いぬい)亮太(りょうた)は学生課で受講の申請書を出した後、予定されているカリキュラムの表を見ながらガックリと肩を落とした、卒業論文と必修ひとコマ、卒論は月1で進捗状況を報告するだけで良く、バイト先に居た去年の先輩から貰った論文の(たば)からコピペを使うので実質終わっている、つまり、週1コマの為に新入生に混じって大学に通うという事だ、他の4回生にバレぬようコソコソ教室に入りあまり目立たない様に授業を受けていた、もちろん授業が終わると同じようにコソコソと大学の敷地を離れるのであった。 「ね、ねぇ(キミ)、他の授業で見ないけれど、ひ、ひょっとしてダブり?」  バイト先のコンビニ前でタバコを吸っていた所、コンビニから出てきたショートカットの女の子に声をかけられた。 『他の授業で見ないけどっ、て事は1回生か…18の割に色々小さいな。』  少し語弊があった、小柄な(・・・)女の子だ、女子中学生って言っても分からないかも。 「高校生じゃないんだからダブリとかは言わないんじゃないかな」 「じ、じゃあやっぱり先輩なんですね2回生ですか?」 「…4回生」 「4回生?!」  何か、距離感近いな…。 「そうだ先輩、肉まん半分こしません?」  そう言いながら俺の了解を得る前にレジ袋から肉まんを取り出す、いつも講義室の後ろの方で授業を受けているけどこんなバタバタした感じの奴クラスに居たか? 「…なんで?」  傍から見たら買い物してきた中学生と外でタバコ吸って待ってたお兄ちゃんくらいに見えるのだろうか、とはいえ俺からしたら初対面の女の子がこんなグイグイ来たらちょっと引くけど、人懐っこいと言うか不用心というか… 「い、いつも後ろの方で一人ぼっちで寂しそうだったから」  初対面なのに失礼と言うか…。 「はぁ?」 「熱っ、これ半分こ無理だわ」 「そうだ…はふはふ」 「お、おぃ?」  人の話を聞かないと言うか…。  肉まんを手で千切ろうとして、意外と熱かったことにびっくりしたのか、ふーふーと息を吹きかけながら、初対面の男の目の前で肉まんにかぶり付いた。  無作法と言うか…。 「ん、ゴホッゴホッ」  何をそんなに慌てる必要があるのか分からないけど中学生みたいな女の子は目を白黒させながら熱々の肉まんを頬張っている。 「お、おい大丈夫か?」 「先輩、人が食べてるときにタバコ吸わないで下さい」  自分勝手って言うか…。 「俺が先に吸ってたでしょうが」 「はい、半分こ」  ニッコリと笑いながらまだ湯気の立っている肉まんの残りをずいっと差し出してきた。 「…人はそれを食べかけと言う」 「え?食べ物粗末にするとバチが当たりますよ?」  天真爛漫っていうか…。 「私、桜井(さくらい)春香(はるか)って言います、よろしくね先輩」  笑顔が可愛いっていうか…。 「俺は、(いぬい)亮太(りょうた)社会心理学科の4回生だ」  食べかけの肉まんを受け取り両手が塞がったのでタバコを消した。 「先輩、何で単位落としたんですか?」  ぐいぐい来るな…。 「テストの日に風邪引いてたんだよ、追試は単に忘れてました」 「先輩、落としたのひとつだけですか?」 「そーだよひとつでも多いくらいだよ」  別にホントの事話さなくてもよかったな、何か、調子狂うな…。 「先輩、肉まん食べないんですか、冷めますよ?」  自由か…。  渡された食べかけの肉まんをじーっと眺めていたがふと気になった、これって間接キスじゃね?ふっ、中学生じゃあるまいしバカバカしい「頂きます」食べかけの肉まんを一口で頬張り包装紙をくしゃっとゴミ箱に捨てた時 「あっ!」 「ん?」 「何でもないです…」  何急にうつむいてんだよ、今頃気づいたのかよ…。 「ご馳走さん、じゃあな」  見てるとこっちまで照れるからさっさとバイト入ろう。 「先輩、買い物ですか?」 「バイトだよ、このコンビニでバイトしてんの」 「え?私毎日買い物してるけど見た事無いですよ」 「夜勤だよ」 「え?明日授業ありますよ」 「知ってるよ大丈夫だよ」 「じ、じゃあ明日授業で、さ、さよなら」 「あ、ああ、さよなら」 『明日授業で』か、結局何だったんだ?  バイトのユニフォームに着換えレジに立つ「大学生と言えばコンビニバイト」バイトが禁止されていた高校生の時から何故かそんな事を思っていた、去年からコマ数が少なくなり深夜勤のシフトを多く入れてもらっている。  週6で働いてるから殆ど就職だ、なぜこんなに働いてるかと言えば卒業後も一人暮らしがしたいからだ。  地元に戻って就職する予定だが実家には戻りたくない、その時の資金を貯めているのだ、たかがコンビニバイトと侮るなかれ、深夜勤の時給は1120円ワンオペ休憩の1時間を足して1日9時間だと1万円だ、給料手取りは20万円、もちろん成人してるから税金はごっそり引かれている。 「実家だとタバコが吸えないしな〜」  酒もタバコもバイトの先輩から教わった、一瞬だけ入ったサークルの新歓コンパでの一気飲みに比べたら優しい先輩だった。    
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