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不法侵入
あれ、電気点いてる?消したはずだけどな
深夜1時半、バイトから帰った俺は部屋の明かりが点いている事に気がついた、週6で入っているバイトだが水曜から木曜日にかけては21〜25の4時間だけだ、木曜日の昼から授業があるからな、ここで朝までバイトを入れて眠くて落としたとなったら目も当てられん。
カンカンと無駄に響く金属製の階段を上がり二階の奥の部屋に向かう「やべーやべー近所迷惑、近所迷惑」と言ってもこのボロいアパートは俺しか住んでいない、来年俺が出たら建て替える予定らしい。
「あれ?」
サァァァー…
風呂場の電気も点いててシャワーの流れる音がする、嘘だろ?確かにバイト行く前にシャワー入ったけど、締めたはずだぞ?
慌てて鍵を開け、部屋に入ると丁度風呂場のドアがガチャリと開いた。
「あ、ご馳走様です」
「はい?」
ひょっこりと顔を出して妙な事を言ってきたのはどう見ても女の子だった…。
「え?ちょっ…キミ、誰?」
え?何これドッキリ?
時間にしたらほんの数秒だろうが完全に思考が停止していた、思考が復旧して思いついたのは『誰かがドッキリを仕掛けている』だった。
「ちょっと人んちで何してんだよ?」
女の子は半開きのドアから顔を覗かせてポタポタ水滴が落ちている、その音にハッとしてドアを開いた。
『違う…ドッキリじゃない、ありえないだろ全裸なんて…そして…デカイ…』
まだ体も拭いてない全裸でびしょ濡れの女の子、その頭のてっぺんから胸の膨らみ、くびれた腰、何も履いてない下半身、つま先、胸の膨らみ右側、胸の膨らみ左側、つり目がちな顔、セミロングの濡れた髪と、男子大学生の性か一瞬で映像を記憶し、脳内フォルダの丸秘ファイルに保存される。
「見たね?」
その言葉に慌てて後ろ向きになる「見てない見てない!」確実に見てるけど何故かそんな事を口走ってしまう。
「顔を見られたからには死んでもらうよ」
え?顔?そっち?あれ?
「今、死んでもらうって言いました?」
聞き間違いかと思った危険な単語にそっと振り返ると、全裸でにっこり笑う女の子はナイフの様な物をキラリと反射させた。
「言いました」
ガタンッ!ゴンッ!
刃物に驚いて仰け反ると流しにぶつかって腰を打ってしまった。
「痛た…」
「大丈夫?凄い音したけど」
腰を押さえうずくまる俺に全裸の女の子は刃物を下げ心配してくれたけど、死んでもらう、とか言ってなかったっけ?
「大丈夫です」
「そう、じゃあ死んでもらいます」
切っ先を俺の眼前にピタリとつけた、この輝きどう見ても本物だ。
「え、やっぱり?でもなんで?」
そんな事より谷間の先からボタポタ落ちる水滴の方が気になる、ついつい刃物と谷間をチラチラ見比べてしまう。
「それは私がくの一だから、顔を見られたからには死んでもらう」
「え?くの一?忍者の?」
「そう、忍者のくの一」
理解できないけど全裸なのに恥ずかしいとか無いのか?くの一だからか?
とか思っていると、ポンッ!と何かがはじけ女の子は黒い忍び装束、ではなく全身をピタッと包むボディースーツ姿に変わっている『え?ひょっとしてマジな話なの?』
ゴクリ、ツバを飲み込む。
「た、助けてくれ、何でもするから…」
「なら私に風呂をなめさせろ」
「はい?なんて言いました?」
「風呂をなめさせろと言いました」
何で風呂をなめさせろ?何処かの方言か?
「何で?」
「何でって私『アカナメ』だから」
深夜2時、体のラインがはっきりと分かる黒のボディースーツを着た女の子の言動、状況も会話の内容も俺の許容を超えている、家に帰ってきてから10分経ってないけど本日二度目の思考停止に至った。
「…アカナメって妖怪の?」
「そう妖怪のアカナメ、知ってるんなら話が早い」
「誰がアカナメ?」
「どっからどう見ても私以外いないでしょ」
女の子は得意そうに腰に手を当て胸を突き出した。
ボディースーツって色違いなだけで裸と変わらんな…会話の内容が理解不可能な為全く関係ない事を考えていた。
「どっからどう見ても女の子にしか見えませんけど」
「えっ?」
女の子は風呂場の鏡を覗いて何やら確認している。
「私、最初からこの顔だった?」
「…はい」
ヤバい、今完全に理解した、可愛いんだけどおつむが残念な女の子に不法侵入されてしまったって事ですね、何とか穏便にお帰り願おう。
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