僕から君へ

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僕がタバコを覚えたのは13歳の夏。 僕はタバコの臭いが大嫌いだった。閉め切った部屋に充満するヤニの臭いはとてもとても不快だった。部屋の壁に染み付いた黄ばみは歪んだこの家族を模しているようで嫌だった。タバコに執着する母親が嫌いだった。ガス代や僕の定期代は払いもしないのに、何を差し置いてもタバコを買いに行く母親が嫌いだった。 病室に備え付けられたテレビ台、ポツンと忘れられた白い箱に青い四角。これじゃないと嫌なのと病的にこだわる母親のタバコ。パーラメントライトロングのボックス、間違わないでね、買に行かされる度同じセリフ。 病室の窓を開けた。 ガチャンと音がして20センチ程度しか開かない窓。ここは個室の7階、きっとこの部屋代も誰も払わない。 昼の検温が終わったばかりでしばらく誰も来ない、と、ふと思ったんだ。何か悪い事に初めて手を付ける瞬間なんかこんなもん。 僕はパーラメントライトロングのボックスから、一本引き抜きに火をつけた。 喉を通過し煙が肺に到達した瞬間盛大にむせた。非常にまずい、クソまずい、ありえない。想像以上のまずさにむせる、煙にむせる、膝に手をつきひたすらむせる。ゲホゲホいいながら吐き気も襲ってきやがって。もう、クソ最悪な状態。 少し落ち着き膝についていた手を放し、真っすぐ上体を起こした。クラクラする。ものすごくクラクラする。頭がぼんやりして脳内が緩やかに回っている。心臓が耳のすぐ内側で動いているかのような煩い動悸が聞こえる。 僕はこれまで僕の頭を完璧に制御できていた。頭と僕は間違いなく直結していて僕の命令は絶対だった。 なのにこの状況はどうだ。 今脳ミソは僕の意識下から逸脱し、完全にコントロールを失いフワフワと漂い帰ってこない。 僕が生きてた13年では経験したことがない異物が、今脳内に送り込まれたのを体感した。 快感だった。そう、快感だったんだよ。 その日から3日間、タバコを吸い、頭痛がし、むせかえり、便所にこもり絶え間ない吐き気と戦った。体は全力で拒否していた、ずっと気持ちが悪かった。 くそ不味さと、不快な体の症状を差し引いても得た快感は僕にタバコを無理やり体に叩きこんだ。
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