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 スラム街の貧困から這いだし、いみじくも逞しく掃除屋として裏社会で成りあがった俺のような男は、世間一般からすれば(けが)らわしい人間のクズであろう。そんな得体の知れない人物が今、金持ち共が新年を温かい南洋で迎えようと仕立てた豪華クルーズ船に乗り込み、貧乏人から掠め取った汚い金で開かれる、酒池肉林阿鼻叫喚の宴の小間使いなどに身をやつしているわけだ。  理由は前出のとおりであるのだが、実のところ、俺のである――邪魔な人間に、この世から綺麗さっぱり消えていただく、俺の最後のターゲットとして選ばれた相手こそ、社交界きっての美貌を称えられ、父親の権威と相まって、一流芸能人にも劣らぬ人気を博している、本来俺など一生に一度たりとて近付くことさえ許されぬ社交界きってのお姫様、俺の現在の御主人、その人なのだ。
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