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 何故、俺を起さなかった。  しまった! 令嬢はこの時を待っていたのか。しおらしい態度を見せ、機会を伺っていたのではないのか。俺を地獄へ突き落とすチャンスを、密かに狙っていたのではないのか。  俺はただちに、海岸を駆けボートに向け全力で泳いでいた。海面へ顔を出した俺の目に、必死にオールを漕ぐ令嬢の姿が映る。  駄目だ、追いつけない。既に岸に引き返せる距離ではなくなっていた。 「おぉい! 待て、待ってくれぇ!」  令嬢は俺が死んでもかまわないというのか! 俺は裏切られ破滅し、このまま海に沈むしかないのか。   諦めかけた頃、上空を旋回していたセスナから投下されたライフジャケットまで泳ぎつけた俺は、遠ざかる令嬢の後姿を見送ることしかできない。時折、振り向く令嬢の目にはもう、俺の姿は映っていなかった。  一時間ほどして、海域国所属の巡視船が姿を現し、沖合いまで出ていた令嬢と、ライフジャケットを装着して漂流していた俺は回収された。  船内で、俺と令嬢は別々に健康診断を受け食事を与えられた。取り乱している令嬢の代わりに、乗船していたバトラーが身分の照会など手続きをしてくれたようだった。夜明け前、到着した港に下ろされ再会した俺達に、バトラーは救助が遅れたことを詫びた。
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