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Ⅵ
口を噤み、俺を狂気の宿る眼で睨み続けていた令嬢の瞳は、かつての精気が蘇っていた。
バトラーを遭難前の口調で責めたてる。
「私がどんな目に遭ったか、わかって! 人に言えない辱めを受け、死までも覚悟したのよ! 許すもんですか! 私をこんな目にあわせた連中、全員に罰を与えてやるわ! バトラー、貴方もよ!」
バトラーは、力ない老人の目を陰気に細め言った。
「お嬢様。その件に関しまして、ご報告がございます」
「なに? 早く言いなさい、言い訳なら聞かないんだから!」
俺との関係を覆い隠すように、以前と変らぬ威勢を張る令嬢に、バトラーは淡々と語りはじめた。
「まず、おひとつ。婚約者であらせられる皇太子様から婚約破棄が通告されております」
令嬢は一瞬身体を強張らせ、冷たい表情に怒気を込めた。
「あんな奴、こっちから願い下げよ! そんなことより、お父さまにこの男を始末しろと、早く伝えて頂戴!」
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