銀座へ

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銀座へ

修学旅行当日。自由行動の日。 詠美と加代は、さっそく銀座の街に繰り出した。 「いいの? 加代ちゃん」 詠美が加代の顔色をうかがうように尋ねる。 「いいよ」 わたしが行きたいんだよ。 ミミックワールドなんて、子供っぽいじゃない、と加代は思う。 目につく大きなデパートに、ふたりで肩を並べて入る。 香水売り場は、エレベーターをあがってすぐのところにあった。 「うわあ!」 思わず、はしゃいだ声が出てしまう。 ガラスケースの上に、整然と並べられた香水瓶は、さながら美術品のようだ。 深い海の青さをたたえた瓶。 おとぎ話のお姫様のドレスのような瓶。 リボンがついているものもあるし、蝶がモチーフのものもある。 それに、売り場に漂っている、なんともいえない上品な香り。 「素敵だねえ」 加代は、うっとりとして胸に手を当てた。 「こんにちは」 店員の女性が話しかけてきた。 小さな目に、アイラインをぐるりと囲んでいる。 「こ、こんにちは……」 加代は、小声で答えた。 遠くの鏡に、自分の顔と店員の顔が映っている。 加代は自分が、場違いな田舎の小学生だということに気が付いた。 高揚した気持ちが、風船のようにシュルシュルとしぼんでいく。 「何かお探しですか?」 女性店員が尋ねた。 詠美は、はっきりとした声で答える。 「スズランの香水を探してるんです。 商品の名前は分からないんですけど」 「名前が分からないとちょっと……。プレゼントかしら」 「いえ……」 「一応、探してみますけど。あ、走ったりしないでね」 加代は、カチンと来た。 誰が香水売り場で、走り回るというのだろう。 まったく子供扱いして。 「もういいです。ありがとうございました」 詠美はそう言うと、「行こう」と加代の腕を引っ張った。
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