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1日目
朝夕食後に飲むように出された薬を、言われた通り飲む。夕食後、一錠。そして、おかしいな?と思いつつも翌朝食後、一錠。
変化は早かった。朝の服用から一時間後、強烈な眠気に襲われる。全身が怠い。靄がかかったかのように思考がおかしい。めまいはし、口は渇き、言葉が上手く紡げない。千鳥足で水を飲みに行き、コップの水面に揺らぐ自分を見つめたとき、初めて死んだ感情に気がついた。ふと思い立ち、テレビをつけてみた。音が変だ。
そこで思い出す。副作用である。
自分では動けないので、母に心療内科に電話をかけてもらった。電話の向こうの看護師は言う。
「一旦薬をやめてください。そして、今日でも明日でも、いつでも良いので病院に来てください」
と。私はその言葉を改めて母から伝えてもらい、当日である今日行こうと思った。
しかし、千鳥足で街中の病院に行くには心配である。なので夕方まで待ち、昼から仕事が始まった母の代わりに、仕事を終えた父に連れて行ってもらった。
悪夢の始まりである。
私が着いた頃、心療内科には他の患者はいなかった。終了時刻に近かったからである。私と父はすぐに呼ばれた。
「副作用が出たって聞いたけど、具体的にはどうなの?」
靄がかかった私の脳は必死に言葉を探す。そうだ、症状をまとめたメモがあるではないか。
「めまいとか、倦怠感とか…」
私が必死に探した言葉を伝えたとき、先生は頷きカルテを見る。
「書いてあるね。めまい、倦怠感、口の渇き、頭痛、眠気と。」
「そうです。あと、音が半音下がってるような…」
その言葉を聞いて、先生は喜んだようにマスクで隠れた口角を上げる。
「それは昨日言ったよね?安心して。でも、めまいとかは珍しいんだよ」
「はあ」私はそう返すしかなかった。
この、「はあ」の二文字の後ろには「?」や「…」や「。」が入る。いろんな意味で、「はあ」なのだ。
「うーん、じゃあ薬を変えようね」
と、楽しそうにカルテに記入する。父の目にはどのように映ったか分からないが、少なくとも私の目には不快に映った。PTSDの話もしたが、0日目に書いたように受け流される。
「診察終了まであと7分なんですよ」
その一言で、私と父は心療内科から追い出された。
クリスマスのイルミネーションで飾り付けられた街並みは美しかった。その下で、呼び込みをするお兄さんたちがいる。彼らの瞳は、客が誰か一人でも来てくれるであろうという希望で満ち溢れている。彼らに私はどう見えていたのだろうか。目を腫らした人間は、帰路に着いた。
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