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第1章3節 救いの手
僕の口からは僕の声ではなくはしご車の声が出ていた。
「なによ、本当にどうしちゃったの?」
「どう見ても普通じゃないぞ……」
「君たち早く少年を開放するんだ」
「え?」
「開放しろ!!!」
僕の口からは車の外にまで響く大きな叫び声が発せられていた。
それには流石の両親も焦りを見せ、発進の手を止めた。
母が助手席から降り僕が縛られた座席のドアを開けたその時、それは僕の耳に届いた。
「あの」
声のする方へ目を遣ると、隣家の玄関から一人の少年が出てきた。
「お兄さん!」
「おはよう」
僕の呼び声にお兄さんは優しい笑顔と挨拶で返してくれる。
それに対して僕が表情を柔らかくしたのを応えと受け取ったのか、お兄さんは視線を移し替えてこう言った。
「あの、もし出掛けるのを嫌がってるようなら今日1日ぼくが預かりましょうか?」
「え、そんな悪いわよ! それにあなたも週末はアルバイトで忙しいっていつもお祖母さんが……」
「ああ、今日はたまたま休みなんで大丈夫ですよ。むしろ1日暇をどう潰そうか悩んでいたくらいですから」
そんな調子で優しい表情を崩さないお兄さんは、押し合いへし合いしながらも僕の母を説得することに成功した。
視線を僕の方へ戻し、歩み寄ってくる。
僕を縛った鎖を解き、手を差し伸べてくれた。
僕はありったけの感情を込めて伝えた。
「ありがとう!」
お兄さんの救いの手が僕に“届いた”――。
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