序章1節 「ある夏の日」のはじまり

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「おはよう」 そう言いながら温かい笑みを浮かべ、お兄さんは僕の後ろに立っていた。 彼はうちの隣に住んでいるお兄さん。 僕がうんと小さい頃から遊んでくれている、大の仲良しだ。 お兄さんはこの春高校を卒業し、今は週6日アルバイトをしているらしい。 そんなお兄さんが今ここにいるのは、僕が夏休みの間、 週に1日しかない貴重な休みを僕と遊ぶことに費やしてくれるからだ。 僕が体を翻すと、お兄さんも同じようにして、そして歩みを始めた。 僕らが向かったのはダンチから歩いてほどない、緑が鬱蒼と茂る公園だ。 道中、僕とお兄さんは耳に入る虫の音や道端に転がった草花に好奇心を向かわせた。 僕とお兄さんは公園に着くと迷いなく、大きな池のほとりへ足を遣った。 しばらく池を眺めた後、お兄さんは肩にかけたサコッシュから、 とりどりの色を掴み出した。 取り出したばかりの色たちは、まだその時点では萎んだ蕾の姿で、 水飲み場の蛇口を捻り、蕾に水を遣ると、それらはぷくぷくと花を咲かせた。 彩り豊かな花たちは水玉や渦巻きなどの模様をその身に纏っている。 「ぼく好きなんだよね、水風船。」 いつもの優しい口調でそうつぶやいたお兄さんは、 手にとった一輪の(水風船)を空に放った。
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